夜はまだ、元彼を思い出す

——結衣と付き合ってから、
俺の世界は確実に、結衣中心になっていた。

放課後の予定も、休日の過ごし方も。
気づけば全部、結衣が基準だ。

もっと一緒にいたい。
もっと話したい。
もっと、結衣との思い出を増やしたい。

そんな気持ちが、日に日に大きくなっていった。

体育祭や文化祭。
みんなが浮かれるイベントのたびに、
結衣は何度も呼び止められていた。

「結衣ちゃん、今日の放課後あいてる?」

そんな声が聞こえるたび、
俺は平気なふりをしながら、胸の奥がざわつく。

(俺の彼女なんだけど)

そう言葉にしたいのに、
喉の奥で引っかかって、言えなかった。

告白される結衣は、
困ったように笑って、ちゃんと断っていた。

それでも。

(もし俺がいなかったら)

そんな考えが一瞬でも浮かんでしまう自分が、
情けなくて、悔しかった。

だから俺は、
結衣の手を取る回数が増えた。

人前でも。
イベントの帰り道でも。

少し強引なくらいに引き寄せて、
「俺の隣にいろ」って、態度で伝えたかった。

結衣が驚いた顔で俺を見るたび、
胸が痛くなる。

(怖がらせたいわけじゃない)

ただ、奪われる気がして。
離したくなかっただけだ。

夜、一人になってからも、
結衣が誰かに呼び止められていた場面を思い出す。

——もし、俺よりいいやつが現れたら?

そんな不安を打ち消すように、
俺は思う。

もっと一緒に過ごそう。
もっと笑おう。
もっと、思い出を作ろう。

そうすれば、
この気持ちは本物だって、
結衣にも、俺自身にも、ちゃんと残るはずだから。