夜はまだ、元彼を思い出す

付き合って半年。
結衣と蓮は、いつも一緒だった。
放課後も、行事の日も、自然と隣にいるのが当たり前になっていた。

それなのに——
体育祭でも、文化祭でも。
二人とも、周りから告白され続けていた。

「付き合ってるって、知ってるはずなのになー」

笑ってそう言った蓮の横顔は、いつも通り余裕があって。
それが、結衣の胸を少しだけ締めつけた。

(蓮は、私の“顔”に一目惚れしたんだよね……)

可愛い子が声をかけてきたら。
スタイルのいい子が近づいてきたら。
——揺らがないって、言い切れる自信がなかった。

だから結衣は、いつもより強く蓮の腕を引いた。

「今日は……静かなところ、行きたい」

人のいない、蓮の家。
親がいない時間帯だと知っていて、あえてそこを選んだ自分に、
結衣は少しだけ戸惑いながらも、目を逸らさなかった。

部屋に入ると、蓮は黙って結衣を見下ろした。

「不安?」

低い声でそう聞かれて、結衣はうなずく。

「……私だけ、見てほしい」

次の瞬間、強く抱き寄せられた。
逃げ場を塞ぐような腕。
額に触れる距離で、蓮ははっきり言った。

「他の誰も、興味ない」

その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
結衣は、彼のシャツをぎゅっと掴いた。

——この時間が、嘘じゃありませんように。

外の音が遠くなって、
二人だけの空気に包まれていく。