夜はまだ、元彼を思い出す

付き合い始めてから、
放課後は全部、蓮の時間になった。

「帰るぞ」

それだけ言って、
私の手首を掴む。

強くはないけど、
逃げられない力。

気づいたら、
指と指が絡まっていた。

「……ちょっと、急すぎ」

そう言うと、
蓮は少しだけ照れた顔で言う。

「離す気ないから」

ずるい。

学校を出て、
自転車を並べて走る。

信号で止まるたび、
蓮は何も言わずに近づいてきて、
肩を抱く。

「人いるよ」

そう言っても、
聞く気なんてない。

人気のない道に入ると、
急に自転車を止められた。

「なに?」

答える前に、
壁際に追い込まれる。

ドン、って音がして、
腕の中に閉じ込められた。

「結衣」

名前を呼ばれるだけで、
胸が苦しくなる。

キスは、
いつも突然だった。

逃げる間もなく、
唇が重なる。

短くて、
でも強引で。

離れると、
蓮は必ず目を逸らす。

「……嫌?」

そう聞く声が、
少しだけ弱い。

「嫌じゃない」

そう答えると、
ぎゅっと抱きしめられた。

言葉は少ないのに、
触れ方だけは、
いつも強引で、真っ直ぐ。

それが嬉しくて、
怖くて、
たまらなかった。

毎日一緒で、
毎日同じ帰り道。

それなのに、
手を繋ぐたび、
キスされるたび、
心臓は慣れなかった。