夜はまだ、元彼を思い出す

結衣の服、
正直、すぐ気づいた。

いつもより時間かけてる。
髪も、メイクも。

……可愛い。

普通に。

でも、
それを口にするのは、
なんか違う気がした。

言葉にした瞬間、
軽くなる気がして。

俺は、
態度で示すタイプだろ。

抱き寄せるし、
触れるし、
会いに行く。

それで十分だと思ってた。

「今日、どう?」

って聞かれた時、
一瞬だけ迷った。

言えばいいのに。
可愛いって。

でも、
照れくさくて、
タイミングを逃して。

代わりに、
ジャケットをかけた。

それで伝わると思った。

……思ってた。

別れ際、
結衣の顔が少し曇ったのに、
俺は深く考えなかった。

「また夜な」

いつもの言葉。

それが、
一番近づける時間だから。

昼は、
なんか落ち着かない。

手を繋いで歩くのも、
嫌いじゃないけど、
夜の方が、
結衣が俺のものって感じがする。

……最低か?

いや、
そんなつもりはない。

結衣は、
ちゃんと俺の彼女だ。

だから、
言わなくても分かってる。

可愛いって。
誰よりも。

そう信じてた。

——でも。

帰り道、
ふと胸がざわついた。

あの顔。
何か言いたそうで、
言わなかった結衣。

「……言えばよかったか?」

今さら、
そんなことを考える。

でも、
もう遅い気がして。

俺は、
ペダルを踏みながら、
言葉にしなかった後悔を、
少しだけ噛みしめていた。