夜はまだ、元彼を思い出す

結衣を自転車の後ろに乗せて、
夜道を走る。

背中に伝わる体温は、
確かに結衣なのに。

……何かが違う。

「さっきの飲み会、誰といた」

問いかけると、
一瞬だけ、結衣の腕に力が入ったのが分かった。

「友達だよ。あと、先輩とか」

先輩。

その言葉が、
やけに引っかかる。

「送ってきたのも、その先輩?」

返事がない。

沈黙が、
答えだった。

「……へぇ」

俺は笑った。
でも、全然楽しくない。

俺がチャリで迎えに来て、
他の男が車で送ってくる。

比べられてる気がして、
胸の奥がざわつく。

俺の家に着いて、
結衣を部屋に入れる。

ドアが閉まった瞬間、
俺は結衣を壁に軽く押し付けた。

「俺の彼女だよな」

逃げ道を塞ぐ距離。

結衣は、
困った顔で俺を見る。

「……うん」

その返事に、
少しだけ安心して、
でも余計に腹が立つ。

「じゃあさ」

結衣の顎に指をかけて、
視線を合わせる。

「他の男に、
そんな顔見せんなよ」

キスは、
優しくない。

独占欲を隠さない、
確かめるだけのキス。

結衣の息が乱れて、
俺の理性も少しずつ削れていく。

——奪われる気がした。