夜はまだ、元彼を思い出す

誠の車から降りた瞬間、
夜の空気が一気に冷たくなった。

でも、
手の中のミルクティは温かい。

——優しい人だな。

そう思った瞬間、
遠くから聞こえた。

キィ……ッという、
聞き慣れたブレーキの音。

自転車。

胸が跳ねる。

「……蓮?」

街灯の下に現れたのは、
やっぱり彼だった。

少し息を切らして、
前髪が乱れていて、
不機嫌そうな目。

「迎えに来た」

短く、それだけ。

視線が一瞬、
誠の車に向いたのを、
私は見逃さなかった。

「送ってもらっただけ」

そう言うと、
蓮はふっと鼻で笑う。

「ふーん」

近づいてきて、
私の手首を軽く掴む。

強くないのに、
逃げられない距離。

「行くぞ。」

命令みたいな口調なのに、
どこか安心してしまう自分がいる。

自転車の後ろに乗って、
蓮の背中にしがみつく。

——この匂い、
この距離。

誠の静かな優しさ。
蓮の強引なぬくもり。