琥珀色の港を見たい君。

 「大丈夫?」

 入学式の日、ただの小石で躓いた俺をバカにせず手を差し伸べてくれた君に、俺は恋をした。

~~~~~~~~~

 俺、笹賀湊斗《ささがみなと》はクラスメートの桜井美月《さくらいみづき》さんに恋をしている。桜井さんと同じクラスになって、しばらく隣の席だった。その期間で俺は、彼女の男女関係なく困っている人を助ける優しいところ、桜井さんが醸し出すほんわかした雰囲気がかわいらしいところ、そしてサラサラの髪、すらっとした体、整った顔の俺のドタイプの顔で、俺は桜井さんのかわいいビジュアルに速惚れてしまったのだった。

「はぁ~、今日も桜井さんかわいいなぁ~♡ って思ってるっしょ??笑笑」

「えーっと桜祇《おうき》、もっかい言ってみろ??」

「あ~ぁ、付き合いたいなぁ~~~♡ とも思ってるよなぜったい笑笑」

「あ、そうだ凛空《りく》、裁縫道具ある??その口、特別に縫ってやるよ。」

 バカな明るいいいやつ、東雲桜祇《しののめおうき》とバカだけど高身長のバレー部エース、小松凛空《こまつりく》は俺のイツメンだ。この2人は俺が桜井さんのことを好きなのを知っている。だから隙を見てはいつも俺をからかってくる。

 くそ、元気なバカ供め・・。桜祇と凛空は俺をからかえて嬉しいのか、「へっへっへぇ~www」と2人で間抜けにニコニコ笑っている。この恨みは忘れないぞ桜祇、凛空・・。いつかお前らに好きな人ができたらぼろくそにバカにしてやる・・。覚えてろよ・・。

「桜祇も凛空もモノマネがへったくそだなぁ。もっとクールな感じに言わないと湊斗っぽくないよ~。」

「ー琥珀《こはく》、さっきのこいつらのセリフに全然アドバイスしなくていいぞ。」

 身長の高い凛空の後ろからひょこっと現れた小柄の男子、天月琥珀《あまつきこはく》も俺のイツメンの1人だ。バカ2人に比べてだいぶましな方だが、俺をからかってくるのはバカ2人と変わらない。

 桜祇と凛空よりバカではないところを除いて琥珀が2人と違うところは、意外と何を考えているのか読めない不思議な雰囲気をまとっているところだろう。あと、ふわっとした感じも醸し出しているやつでもある。何事も軽く考えていそうというか。

 今年の4月の終わりごろから一緒にいるけど、俺は7月になった今でも未だに琥珀が一生懸命になって何かをやっているところを見たことがない。

まぁ俺はそういう琥珀にしか出せない雰囲気は結構好きだけど。

「はぁ、どいつもこいつも・・。」

「なんだよ湊斗。お前がいつまで経っても桜井さんにアピールしないからバカにされてるんだよ。俺たちに。な、凛空、琥珀。」

「あぁ、見ててムズムズするわ。琥珀、アドバイス湊斗によろ。」

「ん~・・。あ!あいさつから始めようよ~!簡単だよ?まぁ俺は意外と仲いいからふっつーにできるけど、湊斗にはハードル高いかな~?」

「あいさつ・・か・・。」

 いや俺だって桜井さんにあいさつしてみたいよそりゃ。でも桜井さんのオーラが強すぎて、まぶしすぎて、俺はあいさつできないんだよ・・!!・・誰かに共感してほしいところだが、このことをこいつらに言ったら、バカにされるからぜったい言わないけど。

「んー考えとくわ~。あ、そろそろ朝の会はじまっから席につけ。」

「「「りょ~」」」

 そう言って3人がそれぞれの席に戻っていく。俺はふと1番窓に近い列の席に座っているの桜井さんのほうを見た。6月で1度席替えをしたので今は桜井さんと俺は隣の席ではない。

「ふわぁ~」

 手を口に当てながら、あくびをしていた。その様子はまるで天使のようだった。

「あー今日もかわい。」

俺は誰にも聞こえないように、小さな声で呟いた。

 今は仲良くなくても、俺のペースで桜井さん仲良くなっていけばいいと思っていた。無理やり仲良くなっても、なんか変に思わそうだし。だからゆっくりでいい。そう思っていたのに。

~~~~~~~~~

 「こ、琥珀?もう一回言ってもらっていいか・・・?」

「だから、俺も美月のこと好きなの。だから勝負しよ。どっちが美月と付き合えるか。」

 ちょうど桜祇と凛空が体育館に遊びに行っている時だった。ちょうど琥珀と2人になったタイミングで言われた。

ーな、なんでよりによってこいつと好きな人がかぶってるんだ・・。ていうか、

「お前、桜井さんと関わりあったっけ・・?琥珀は桜井さんのどこが好きなんだ・・?」

「関わり?ほら今日の朝美月と話すアドバイスしろって凛空に言われて、「ん~・・。あ!あいさつから始めようよ~!」って言った最後に「まぁ俺は意外と仲いいからふっつーにできるけど」って言ったんだけど、そこから関わりあるんだって思うでしょ。ていう、湊斗知らなかったっけ?俺美月と同中で、3年間クラス一緒だったこと。」

 え、初耳だぞ。同中か~。ーって、3年間クラス一緒はうらやましいって!!俺は受験して男子校だったけど、今になっては受験しないで共学の中学にすればよかった・・!そうしたら桜井さんと会えていたかもしてないのに・・。くそっ。

「えーと好きところだっけ?ん~・・恥ずかしいけど、優しいところ?かな。中学の時、俺よくいじめられてて。」

「ーっえ・・?!」

「いやほら、俺小柄じゃん?あと顔の系統がかわいいからさ~。男子からは「そこの女子~俺が抱いていい?www」とか「女子はあっちですよぉ~www」とか。あと俺のかわいい顔に嫉妬したのかな?女子からは「男子がかわいいとかキモ!」とか「女子に生まれれば勝ち組だっただろうにね~男子に生まれちゃってかわいそうww」とか。」

 琥珀いじめられていたのか・・。この学校ではバカにする人なんてまったくいないし、なんなら「琥珀くんかわいい!」、「かわいくて筋肉あるとかギャップ萌え♡」って女子から言われてるし、男子からは「その辺の女子よりもかわいいし、男気があるよな琥珀。」「ふつ~にうらやましいぜっ・・!!!」って言われている。だからいじめられていたなんて、まったく思わなかった。

 琥珀をいじめていたやつに制裁を与えてやりたい・・。

「そんな中、美月だけは違ってバカにしたり、悪口を言ったりしてこないで普通に接してくれたんだ。それがうれしくて・・。で、美月がいると思えると勇気が出てきて、俺はバカにしてきたやつをやっつけられたんだ。」

「そうなんー・・ん??」

「え?なんか変?」

「え、やっつけた・・??」

「うん。俺、空手やってたからさ。襲ってきたやつ全員返り討ちだよ。」

 琥珀が空手をやっていたなんて。初めて知ったな・・。多分何人かで襲ってきたんだろうけど、その何人かをその体格で倒せるなんて・・。ぜったい実力めっちゃあるな琥珀。

「まぁとりあえず、美月は俺に勇気をくれたんだ。それから、美月を目で追うようになって。気づいたら好きになってた。」

 ーそりゃ桜井さんに恋しちゃうな。桜井さんの優しい性格は中学校からずっと変わっていなかったのか・・。

・・ー今更だけど、いままでどんな気持ちで琥珀は俺に桜井さんいじりしてたんだよ。俺のことよくいじれたな。

「で、どうなの??湊斗、勝負するよね??」

 今の話を聞いて、答えはもう決まっていた。

「もちろん。琥珀、やろう。」

~~~~~~~~~

 琥珀からの勝負を受け入れた次の日。

「美月おはよ~。」

ニコニコスマイルで琥珀が桜井さんにあいさつをする。

「琥珀おはよ~。あいさつしてくるの珍しいね。」

桜井さんは琥珀のあいさつに笑顔であいさつをし返す。

「なんか気分で~」

「あはは!なにそれ~」

 琥珀は桜井さんに積極的にアピールをしているのがわかる。あいさつして会話までして・・。

 それに比べ俺は、緊張して挨拶すらできないから、なんにも出来ず、ただただ琥珀と桜井さんが話しているのを見ていることしかできない・・。

「なぁ凛空、琥珀と桜井が話してるぞ?なんでだ?」

「マジじゃん。珍し。湊斗も見習ってしゃべってくれば??笑笑」

「お前らなぁ~・・。」

 琥珀はまだ桜井さんと会話している。俺だって桜井さんと話してみたい。けど、こんな俺が話しかけてもいいのか??緊張してぜったいまともに話せない俺が!!!

「でもさ、湊斗の前で言うの、あれだけど。お似合いじゃね?あの2人。」

「それな、桜祇、俺も思った。結構お似合いだと思う。でもささくー・・・。」

 俺が琥珀と桜井さんが話しているのを見ている横で桜祇と凛空がそう言っていた。

 他人の目から見るとそう見えるのか。あぁー、なんでかわっかんないけど、胸がチクチクするのはなんでだ・・??もしかしてこれが俗に言う嫉妬というやつなのか・・?

「あー、わりぃ。俺トイレ行ってくるわ。」

 さすがにこれ以上「お似合い」という言葉を聞きたくなかった俺はトイレに逃げた。トイレの中には複数人の男子がいて話していたけど、気にせずにトイレの個室へ入っていく。そしてトイレの個室の中で、俺は考えた。

 桜井さんの雰囲気とビジュアル、性格が好きなだけで、特に何のエピソードも無く恋をして、緊張して話すことすらできない俺。

 桜井さんに恩があって、まともな理由で桜井さんが好きで、仲良さげに桜井さんと話せている琥珀。

 俺は琥珀と同じラウンドに立っていないくせに、琥珀と勝負できる人間なのか?と。

 予鈴が鳴ったので、俺は急いでトイレの個室を出て教室に戻った。

~~~~~~~~~

 「湊斗どしたー?美月やめて俺に告白しようとしてる??笑笑」

 放課後、俺は琥珀を体育館裏に呼び出した。琥珀は相変わらず何考えているかわからない顔でニヤニヤしながら言ってきた。

 俺は1呼吸で流れるように、

「自分なんかより琥珀と付き合うほうが桜井さんも幸せだ。だから俺は勝負を降りる。」と琥珀に伝えた。

「ーはっ?」

 珍しく、琥珀が困惑した表情になっている。眉毛は八の字になっているし、口も間抜けに空いている。どんなことを聞いても基本「それはすごいね~」と言い、ニコニコしながら反応する琥珀。だから俺は琥珀のこんな表情は見たことなかった。レアな琥珀の表情を見れてうれしいと思った。

 しかしそんな俺の喜びとは裏腹に、

「湊斗の気持ちってそんな程度だったんだ。」

と冷たい目で見下される。いや正確には冷たい目で憐れまれているというのが正しい。

「いや、桜井さんのことはほんとに好きなんだ!!でも、ほぼ話したことのない俺が桜井さんを好きなのはきっと迷惑だし、何よりお前と話してる桜井さんはすっごく幸せそうな顔をしていたんだ。あとお前は、ちゃんとした理由で桜井さんを好きになってる!俺よりもまともな理由で!だから、きっとー・・」

 そう弁解したけど、琥珀の目の光が消えていくだけで、逆効果だった。琥珀はさっきよりも低い声で言った。

「こーんなしょうもないことで俺を呼び出したってわけ?はぁくっだらないなぁ~。なんか最初に「琥珀と付き合うほうが桜井さんが幸せ」とか言ってたよね。」

「言ったけどなにかあるか?」

 もういいんだ俺は。好きな人が俺の友達と付き合えるなら、好きな人が幸せならそれでいいんだ。だから琥珀、もう終わりにしてくれ。

 俺の「言ったけど何かあるか?」でさらにイラついたのか、琥珀の口調はいつもとは全く違い、荒々しく。そして早口で俺に言葉を投げつけた。

「はっ、だあぁっっさ!!本当は勝ち目がないと思ったから勝負を降りたんじゃないのか?!俺がお似合いだってのはそれの言い訳として使ってるじゃねーの?!人を好きになる理由??まともな理由とか、まともじゃない理由があるとか、初めて知ったけどさ、んなもんどんな理由であろうと人を好きになる理由なんてなんでもいいだろ!!」

 一気に言ったから琥珀は息を切らしながら俺を睨んでいる。その目はとても怖かったし、その目から視線を逸らせなかった。

「ーもういいわ、こんなだっさいやつに美月が好かれてると思うと美月がかわぁ~いそ。」

そう言ってくるっと後ろを向いた。最後に

「じゃーーな負け犬。」

と言ってその場を去っていった。

~~~~~~~~~

 「うわぁ、かっこいっ」

 俺は率直に湊斗を初対面で見たとき、そう思った。ビジュアルがまずすごかった。でも湊斗とは入学当初は席が近くなかったので、関わる機会は全然なかった。

 転機が訪れたのは4月終わりのグループ別学習。くじ引きで決まった班に湊斗がいたのだ。湊斗とグループ別学習で一緒になって、だんだん話すようになって、一緒にいる時間が長くなってー・・。そうして今に至る。

 仲良くなって一緒に過ごすうちに湊斗がかっこいいのは何かにいつも一生懸命だからだと気づいた。

 グループ別学習だって人一倍調べてたし、率先してまとめようとしてくれたり、勉強もわからないところは先生に聞きに行って、苦手をなくし、いつもテストでいい点とれるようにしてるし。物事に一生懸命になれて、その姿がかっこいい湊斗に、俺はあこがれを抱いた。

ー俺には一生懸命になれるものがないから。

 湊斗が桜井さんのことを好きだと、6月くらいに知ったときは「なんでこいつが・・。」と絶望した。こんなかっこいいやつに告白されたら、断れるやつはいないだろ。あと湊斗は大事な友達だ。友達の恋は応援したい。しばらく、俺の中でどうするか考えた。そしてある日結論を出す。「友達だからこそ、正々堂々とぶつかってやろうじゃないか。」と。あとは全く美月に話しかけられず、進展しないのに少し腹が立ったので後押しするのを込めて俺は勝負を仕掛けた。

 なのになんでお前はあきらめるんだ。ぶつかろうとしないんだ。一生懸命にならないんだ。お前の強みをなんで生かさないんだ。なんで「自分なんかより琥珀と付き合うほうが桜井さんも幸せだ」とか言って逃げるんだよ・・。 あと「ちゃんとした理由があるから」とも言っていたよな。ほんとにそれについても意味が分からない。好きな理由がちゃんとなくても、好きな理由があればよくないか??言い訳ばかりをして勝負を降りた湊斗の姿が本当に見ていて胸糞悪かった。

 いやでも、こんな湊斗の姿を桜祇と凛空が見なかっただけいいと思おう。湊斗は俺らのリーダー的存在だから、意外とショックを受けやすいあいつらが見たら、明日から不登校気味になっていただろうから。

 まぁさすがに口調を荒々しくしすぎたし、言い過ぎてしまったところは俺も悪い。でも、そんな風に言ってしまったのはそんなお前を俺は見たくなかったからなんだよ。

 俺の心情とは全く違い、空は雲一つない快晴だった。快晴の空の下を歩いて、俺の家へ向かった。

~~~~~~~~~

 体育館の中で響く部活のやつらの声。体育館でボールをつく音。校庭でサッカーボールを蹴った音。ホイッスルの鳴る音。誰かと誰かが笑いあってる声。

 俺は1人体育館裏に取り残され、ただ立ち尽くしていた。

 琥珀にしてはすごい荒々しい口調だったこと、吐いた言葉がどれも俺に当てはまるような言葉だったさっきのことを思い出すだけで、無性にイライラしてくる。

 なんで伝わってくれない?こんな俺じゃ桜井さんに似合わない。だからそれなら桜井さんと幸せそうに話せてるお前が付き合った方が絶対いいだろ。俺はお前に幸せになってほしいから、降りたんー・・。

あれ・・。

今のが、

ー琥珀が怒った原因・・?

 琥珀は「俺がお似合いだってのはそれの言い訳として使ってるじゃねーの?!」と言っていた。俺は「琥珀が幸せになってほしいから降りた」、「琥珀を幸せにするためだ」それを言い訳にして、勝負から逃げていたのかー・・?

 気づいたら足が勝手に動いていた。全力で俺は琥珀の後を追いかけた。なんで気づけなかったんだろう。もしも俺が琥珀から俺が言ったような言葉を聞いたら、すっげー失望するし、怒ると思う。

 「桜井さんが琥珀を好き」。そう思い込んでいた俺は大馬鹿だ。

 その時、前の方に歩いている琥珀を見つけた。

「琥珀!!!」

 ひさしぶりにこんな大声出したな・・。

 琥珀はピタッと足を止めて振り返った。

「ーみな、と・・?!」

 その隙に俺は琥珀に近づく。琥珀は今も戸惑ったような顔をしていた。俺はすかさず言った。

「ごめん俺、勝手に色々決めつけてた。しかも、お前を言い訳にして、逃げようとしてた・・!!」

「・・・」

「琥珀、お、俺が・・・」

 緊張で手と声が震える。
 あぁすごく怖いな。これで受け入れてもらえなかったら?さらに失望されたら?関係がもっと悪化したら?なんで最悪な展開しか出てこないんだ。
 
でも、ここで勇気を出して言わないと、俺はずっとこのままだ。友達に本音でぶつかれないやつが、ぜったい桜井さんに告白なんてできるわけない。

 大きく息を吸う。

 そして琥珀の目を見て言った。

「俺が間違ってた・・!本当に、ごめん・・!!ほんとにわがままだって分かってる。」

どうか、手を取ってほしい。そう思って俺は手を差し出した。

「もう一度、俺と勝負をしてくれないか・・?」

 しばらくの間沈黙が流れる。そりゃそうだ。急にこんなこと言われても、許す気にはなれないよな。でも、俺はやれることをやったんだ・・!

「ーもう逃げないんだね?」

 沈黙を破るかのように琥珀が言った。

「ー!もちろん!ぜったい逃げない!」

 俺のこの言葉を聞いて琥珀は嬉しそうな顔をした。そして俺の手を握り、

「ーじゃぁ、第2ラウンド開始だな。」

 と言ってくれた。

「・・おう!負けねーから!」

そう言って俺は琥珀が握ってくれた手を強く握り返した。

~~~~~~~~~

 月日がたち、今日は2月14日。

 琥珀と勝負を再開した後、俺は勇気を出して「ーお、お、おはよう。」とあいさつをしたところ、桜井さんから「おはよう、笹賀君!」と天使スマイルで返してくれたのだ。俺は緊張なんて吹っ飛び、桜井さんの天使スマイル見たさにあいさつができるようになったのだった。そこから雑談ができるようにまで成長していた。

 今日、俺と琥珀は桜井さんに告白する。3月14日がいいのではと俺から提案したが、「3月14日は春休み入っちゃうからやめとこっか。バレンタインは女子から男子にチョコレートあげたり、告白するイベントだけど、別に男子から告白してもいいと思わない?」ということで 今日告白することになった。

 俺たちは、桜井さんに「今日の放課後、体育館裏に来てほしい。」と伝えた。彼女は天使のスマイルで「りょーかい!」と言ってくれた。俺と琥珀はまず来てくれることにホッとした。そして今は体育館裏に向かっている最中だった。

「ねね湊斗、日和ってないよね?まぁ別にやめてもいいけど~?」

「琥珀こそ直前でビビッて逃げるなよ??」

 そう言いあっていると体育館裏に着いた。

 が、桜井さんはまだいない。俺たちがトイレでビジュアルを整えるために教室を出たころにはもういなかったのに。なんで先に出たはずの桜井さんがいないんだ??

 俺と同じことを思っただろう琥珀と目が合った。

「インスタのDMしてみようかな・・。」

 そう言って琥珀がスマホを取り出したその時、

「・・だから・・!」

と、体育館裏の奥の茂みの中から声が聞こえた。その声の主が気になったので俺たちは茂みの方に近づいて行った。

 10歩くらい歩いて、木のそばで男女が話している姿が見えた。木の陰で話しているということは何か秘密の話だろうと思い、俺たちはまぁ2人姿が見える場所の近くにちょうどあった電柱の陰から様子を伺う。

「え、あれってー・・!」

 なんと茂みにいたのは桜井さんと同じクラスの瀬川蒼《せがわあお》だ。瀬川というのは眼鏡をしている黒髪のクール系の男子で、休み時間は本を読んだりしている。テストの点もよく、真面目に授業にも取り組んでいて、先生からの信頼も厚い。なんなら学級長もやっている。なので、典型的な真面目キャラに思われがちだが、俺は中学で同じ3年間クラスだったから知っている。

 瀬川は眼鏡を外すとめちゃめちゃイケメンだし、運動がめちゃくちゃできるし、中学の頃は黒髪じゃなくて赤髪だった・・!!中学の時、「そこは名前通り青にすればよかったのに・・。」って思ったし、名簿が前後だったから覚えている。あと結構チャラかったからか、隣にいる女子はたいがい1か月後には違う人に変わっていたから印象に残ってたし。会話はしたことがないけど。

 なんで桜井さんと瀬川が一緒にいるんだ・・??

 しばらく声が聞こえてきていなかったが、声が聞こえた。

「あおくん、なんでこんなことするの・・?んっ~・・!!」

 思わず顔をそむけた。い、今2人でき、キスしたよな・・!?ってことはあの2人は・・。

「なんでこんなことするかって??はぁ・・。そりゃ美月がこんな所で男と会うっていってるからだよ?今日何の日か分かってる?」

「だから、2人はただの友だー・・んっ」

「バレンタインでしょ。そんなやつらよりも俺にかまってよ。てか彼氏いるのに今日他の男子と会おうとしてたってこと?」

「ちが、~っんん!!・・っん!ぁ、あお、く・・。」

「あ゛ぁー嫉妬で狂ってそいつら殺しそう・・。」

 ーうわ、このまま告ったら俺たち瀬川に殺されるやつじゃんこれ・・。

 それをる琥珀も悟ったのか、

「やっぱ今日のなしでってDMで言うか・・。」と琥珀が言った。

「・・そうだな。そーっと帰るぞ。」

~~~~~~~~~

 「桜井さんに彼氏がいたんだな。しかも瀬川、意外とヤンデレな奴だったのか・・。」

 なんかびみょーな失恋の仕方だな。まぁ漫画みたいに綺麗に追われる恋なんて少ないか。

「湊斗さっきの二人のキスみて顔真っ赤だったよね。意外とうぶなの湊斗のギャップだよね。」

「う、うるさい・・!てか、お前あの終わり方でよかったのか?」

「それはお互いにわかってるでしょ。あの後告白してたら明日学校いけないと思うもん。てか永遠に行けなくなりそうだったしー。」

「ーやっぱ思うよな。あれは、命の危機を感じたよ俺も。まぁいい終わり方とは言えないけど、俺は最初に比べて俺は大きく成長できた。」

 最初はゆっくりでいいとか思ってたけど、やっぱ琥珀が勝負してくれていなかったら、一生告白してなかったし、今日見たことも知れなかったと思う。だから

「琥珀、俺と勝負してくれてありがとうな。」

と、心からそう思う。

 一瞬琥珀がびっくりした顔をした。琥珀の珍しい表情をみるのもケンカした以来だ。

「なんか、感謝されるの気持ち悪ぅ~笑笑」

「は?!おい、俺の感謝返せ!」

「うそだよ。う・そ!・・ーあ!このあとマック寄って反省会しよ反省会!ポテトLサイズおごるから!」

「お、いいなそれ。じゃ俺シェイクおごるわ。」

 勝負をして、琥珀のこともなんかさらに知れた気がするし、友情も結構深まったんじゃないかと思う。これからもいろいろとこいつには世話になりそうだなー・・。

「あ、桜祇と凛空からグルラに≪お前らトイレ行った後どこ行ってたん?≫ってきてる。そうだ!湊斗、桜祇と凛空に今日見たこと話さない?俺たちの失敗談も。」

「いいな、そうするか!ぜったいぼろくそにバカにされるけど。」

「あ、俺はバカにする側に回るから~!」

「は!?お前は俺側だろ!!」

「さ、速くいこ~先にどっちがマックに着けるか勝負だ!」

「自由なやつめ・・。まぁ、負けないけど?」

 陽が沈みかけて真っ赤な空の下を、俺たちは駆けて行った。

 こうして、俺たちの恋愛は一旦幕を閉じた。

 しかしこの時俺は、微塵も俺たちの関係が来年、大きく変化しているなんて想像もしていなかった。

 「男子だからダメって・・。今はそれも余裕で受け入れられてるけど?」

 「”かわいい琥珀”だって、思い込んでない??」

 「湊斗、俺、お前のことずっとー・・」

そして気づいた。

高校生活1年目で起きたこの出来事は、これからの本当の物語の始まりに過ぎなかったんだと。


~end~