泡沫少女は愛を知らなかった。

けれど、それが心を温める理由は、最後まで腑に落ちなかった。

彼女は嫌われたことのない人になった。

しかし、嫌われたことがない、というのは、好かれたことがないのと同義だった。

誰かに深く踏み込まれたことも、
拒絶されたこともない。

心は安全だったが、同時に、何も起こらない場所でもあった。

彼女はそれを不幸だと思ったことはない。

比較する基準がなかったからだ。

ただ、ときどき、自分が人間であることを忘れそうになる瞬間があった。

抱きしめられた記憶も、
拒まれた記憶もない。

誰かの腕の中で安心したことも、
逆に突き放されて胸を裂かれたこともない。

人生はいつも、触れられない距離で完結していた。