泡沫少女は愛を知らなかった。

時計の針が進む音、家電が動く音、遠くを走る車の気配。

それらは確かに存在していたが、彼女の心に触れることはなかった。

音はただ「ある」だけで、意味を持たなかった。

それは、人との間に生まれるものもまた、同じで。

彼女は人と関わりながらも、どこか外側にいた。

会話は成立する。

笑顔も作れる。

だが、その奥にあるもの―――感情の震えや、期待や、恐れは、いつも彼女の手前で止まっていた。

人は彼女を「静かな人」と呼んだ。

感情が薄いわけではない。
ただ、それをどこへ向ければいいのかわからなかった。

喜びも悲しみも、内側で霧のように漂うだけで、誰かに届く形にならない。

彼女は、人と人のあいだに流れる「温度」を知らなかった。言葉を交わせば関係が生まれると、頭では理解していた。