泡沫少女は愛を知らなかった。

決定的な瞬間は、劇的ではなかった。

ある日、彼女は少年の横顔を見て、唐突に思った。

「私は、この人に、笑っていてほしいんだ。」

それだけだった。

見返りも、条件もない。

ただ、願いとして、静かに存在していた。

その感情に気づいた瞬間、彼女は震えた。

自分の内側に、こんな明確な方向性が生まれたことが、怖くもあり、同時に、確かだった。

少年もまた、ある夜、理解する。

彼女のいない未来を想像できない。

想像しようとすると、世界から色が抜け落ちる。


――この人の世界に、いたい。


それは所有欲ではなかった。

共に存在したい、という、切実な願いだった。