今思うと、先輩のことが好きだったかは分からないけれど、 浮かれていた自覚はある。嬉しくなってすぐに新に報告した。
新は少し驚いた表情をしたあと、「……へえ、よかったな」と笑ってくれて、それもまた嬉しくて――今思えば、調子に乗っていたのかもしれない。
そんな交際をOKしてから、まだ一週間ほどのある日、休憩室の前で聞いてしまった。
「神山さんと今度デートするから、可愛らしい格好してきて欲しいって言ったんだ」
先輩の声だ。 社内の親しい友人に、私とのことを報告していたのだろう。
浮き立つようなその声に、なんだか恥ずかしくなって思わず足を止めてしまう。
このとき、週末には初デートを控えていた。
服装のリクエストがあったのは昨夜で、「いつもパンツスーツだから、違った休日の可愛らしい姿も見てみたい」と言われ、戸惑いつつもメールで承諾したことを覚えている。
こんなところで……と思いつつも、楽しそうに話す声を聞いて悪い気はしなかった。
でも、やっぱり恥ずかしいから踵を返そうとした瞬間、親しい先輩たちのひやかす声が耳に飛び込んでくる。



