ホームルームが予定よりも早く終わり、委員会や部活で忙しくなる放課後。
私、水島若葉は、今日からの新しい居場所を探し求めている。
学校関係者なら誰もが一度は迷いそうな広い校舎を歩き、やっとの思いで辿り着いたのは、普段は使われることのない北校舎の二階。人気が全くない美術室の向かい側にひっそりと佇む、「図書室」と書かれた物置部屋にしか見えない教室。
ここへ来る途中、完璧な姿勢と品格を持ち合わせた生徒会の委員とすれ違った。委員会や部活に所属せずに、いつも教室の後ろの隅で静かに息を潜めている私とは正反対の世界にいる存在。
(図書委員っていうのをなんで選んでしまったのか)
一人でいることつまり孤独に慣れていたと思っていたのに、緊張や憧れる気持ちで手が震え出す。深呼吸をして、ドアを開けた。
室内は本棚と貸出カウンター、4人掛けの椅子と机、パソコンとカードが置いてあるのみ。本棚は設立当時の面影が残るほど年季が経っていて、今にも壊れそうだ。
「図書委員に応募してくれた子?今日からよろしくね」
奥のカウンターから、一人の女子生徒が文庫本を手に優しい笑みをこぼす。
ハーフアップに纏められた髪型が知的な雰囲気を纏い、透き通るような肌。ホワイトボードに貼り付けられた紙には「図書委員 上野栞」と記されている。
本好きという言葉は、もしや先輩のためだけに存在していると過言してもおかしくないくらい似合う。美人という類に入る完璧な人に見える。
私は本当にここの一員として活動ができるのだろうか。
そんな不安が遮ぎながら、事前に書いた入会誓約書にじっくりと先輩が目を通す。
「うん、高橋葎花さんね。委員長の上野栞です」
「よろしくお願いします」
不器用で慣れない環境のせいで、顔が盛大に引き攣る。
優しい人なのは分かるが、その圧巻する存在に背伸びが伸びる感覚さえした。
「委員長と言っても、さっきまで私一人だったけどね」
先輩が一人しかないという現状に思わず声が出そうになるが、辺りを見渡す。
「遅くなってごめんね。新入りちゃん?」
ガラッという音とともに、教室のドアが開く。夕日に照らされた、新書と学校新聞を両手いっぱいに抱えた
見慣れない小柄で暖かい雰囲気の女性。
「あっ、はい、一年の高橋葎花です」
「こちら司書の二宮絵梨香先生」
二宮先生は、落ち着いた姿勢と、どこか文学に関する知識がある国語の先生ような人。手の本が沈みかけている橙色の光で輝いている。可愛らしくて、包み込む優しさもある素敵な女性。
「よろしくね。明日から一緒に活動するの楽しみだわ」
この高校には、委員会に入会すると、目印としてバッチをつけるという風習があるのだとか。形も色も委員会ごとに違うらしい。
一通り挨拶も終わり、帰ろとしたら先輩に呼び止められた。反射的にわずかに立ち上がっていた椅子に再度深く腰を下ろした。本棚の奥から何かを取り出す先生の姿は、どこか姉のような優しささえも感じる。
目の前に置かれたのは、数え切れないほど開閉されて角が擦り切れたノート。開くと歴代の図書委員の青春の筆跡がびっしり手書きの文字で記された。
「図書室って見ての通り、本が多いけどたくさんの記憶と物語が詰まっている場所でもあるの。委員長と野崎さんという週に一回ボランティアに来てくれる大学生のお兄さん。ずっと二人だけで管理を続けてきた。新書の購入や学級文庫の整理。大変だけどやりがいがある仕事だって。それとこれは運営全般に関わる書類だから目を通してね」
私、水島若葉は、今日からの新しい居場所を探し求めている。
学校関係者なら誰もが一度は迷いそうな広い校舎を歩き、やっとの思いで辿り着いたのは、普段は使われることのない北校舎の二階。人気が全くない美術室の向かい側にひっそりと佇む、「図書室」と書かれた物置部屋にしか見えない教室。
ここへ来る途中、完璧な姿勢と品格を持ち合わせた生徒会の委員とすれ違った。委員会や部活に所属せずに、いつも教室の後ろの隅で静かに息を潜めている私とは正反対の世界にいる存在。
(図書委員っていうのをなんで選んでしまったのか)
一人でいることつまり孤独に慣れていたと思っていたのに、緊張や憧れる気持ちで手が震え出す。深呼吸をして、ドアを開けた。
室内は本棚と貸出カウンター、4人掛けの椅子と机、パソコンとカードが置いてあるのみ。本棚は設立当時の面影が残るほど年季が経っていて、今にも壊れそうだ。
「図書委員に応募してくれた子?今日からよろしくね」
奥のカウンターから、一人の女子生徒が文庫本を手に優しい笑みをこぼす。
ハーフアップに纏められた髪型が知的な雰囲気を纏い、透き通るような肌。ホワイトボードに貼り付けられた紙には「図書委員 上野栞」と記されている。
本好きという言葉は、もしや先輩のためだけに存在していると過言してもおかしくないくらい似合う。美人という類に入る完璧な人に見える。
私は本当にここの一員として活動ができるのだろうか。
そんな不安が遮ぎながら、事前に書いた入会誓約書にじっくりと先輩が目を通す。
「うん、高橋葎花さんね。委員長の上野栞です」
「よろしくお願いします」
不器用で慣れない環境のせいで、顔が盛大に引き攣る。
優しい人なのは分かるが、その圧巻する存在に背伸びが伸びる感覚さえした。
「委員長と言っても、さっきまで私一人だったけどね」
先輩が一人しかないという現状に思わず声が出そうになるが、辺りを見渡す。
「遅くなってごめんね。新入りちゃん?」
ガラッという音とともに、教室のドアが開く。夕日に照らされた、新書と学校新聞を両手いっぱいに抱えた
見慣れない小柄で暖かい雰囲気の女性。
「あっ、はい、一年の高橋葎花です」
「こちら司書の二宮絵梨香先生」
二宮先生は、落ち着いた姿勢と、どこか文学に関する知識がある国語の先生ような人。手の本が沈みかけている橙色の光で輝いている。可愛らしくて、包み込む優しさもある素敵な女性。
「よろしくね。明日から一緒に活動するの楽しみだわ」
この高校には、委員会に入会すると、目印としてバッチをつけるという風習があるのだとか。形も色も委員会ごとに違うらしい。
一通り挨拶も終わり、帰ろとしたら先輩に呼び止められた。反射的にわずかに立ち上がっていた椅子に再度深く腰を下ろした。本棚の奥から何かを取り出す先生の姿は、どこか姉のような優しささえも感じる。
目の前に置かれたのは、数え切れないほど開閉されて角が擦り切れたノート。開くと歴代の図書委員の青春の筆跡がびっしり手書きの文字で記された。
「図書室って見ての通り、本が多いけどたくさんの記憶と物語が詰まっている場所でもあるの。委員長と野崎さんという週に一回ボランティアに来てくれる大学生のお兄さん。ずっと二人だけで管理を続けてきた。新書の購入や学級文庫の整理。大変だけどやりがいがある仕事だって。それとこれは運営全般に関わる書類だから目を通してね」
