端から期待していないから、行動を制限されることもなく、厳しく指導されることもない。
そんな事実を理解せずに能天気に次期社長を目指していた自分が馬鹿らしくて、恥ずかしくて……その場で発狂してしまいそうだった。
その後、入学した高校の同じクラスにあいつの顔見つけたときには相当驚いた。
もちろんこれは親の策略で、結婚するまでの間に親交を深めなさいという趣旨なのだが……私はこれをチャンスと捉えた。
同じ学校にいればお互いの実力を指標する機会が幾度となく訪れるだろう。そこで海里より良い成績を残し、こいつより私の方が優秀であることを示せれば、私にもまだチャンスが残されている。
失いかけた夢の続き。スロープアシストの社長になりたいという不変の目標を遂行するため、俄然やる気の私にとって海里は婚約者以前に“ライバル”という存在になった。
それからというもの、ことあるごとに海里に挑む私とそれをあしらう海里の構図はクラスの名物となり……
「土方、勝負よ。この期末テストで私に負けるようじゃ、うちの会社は任せられない!」
「……またかよ。毎回負けるのに懲りねぇな」
「うるさいわね……!今度こそ絶対勝って、こんなやつ社長に相応しくないってパパに直談判してやるんだから」
「それ前回も聞いたな」
こんなことを繰り返すこと10年。私と奴の勝負は100を超え、その勝敗は……残念ながらこちらの黒星一択だ。


