遅ればせラブアフェア


海里との出会いは今から10年前、高校への入学を控えた15歳の春だった。

国内シェアNo. 1の医療機器メーカー、スロープアシスト株式会社社長の一人娘である私と、国内最大手の製薬会社、土方HD会長の次男として生を受けた海里。

医療に携わる両企業の利益のため、高校生になったばかりの我々は婚約者という形で引き合わされた。

さらりと艶のある黒髪。長いまつ毛に縁取られた末広二重の瞳。鼻筋はスッと伸び……最初に写真だけで確認した第一印象はとにかく“面のいい男”。


「海里くんは医療機器とかに興味はあるかな?願わくば、大学は機械工学を学べるところを目指してもらえると嬉しいんだけど」

両親を含めた初めての食事会で、海里にそう告げた父。その言葉は海里にではなく、私の心に深く影響を与えた。

私の両親は、私がやりたいといったことを何でも自由にやらせてくれた。習い事も、勉強も、何もかもが私主体。

私の人生について何か親に定められたのなんて、この婚約話くらいだ。

それは全て両親の愛情によるものだと思っていたけれど……そうじゃなかった。

ニコニコと嬉しそうに海里に話しかける父を見ながら必死に涙を堪えたあのときのことを今でも夢に見る。


私の将来の夢は……父の後を継いでスロープアシストの社長になることだった。

そのために進んで勉強に励んだし、父の部屋から経営学、機械工学に関する書籍を借りて読み漁っていたけれど……。

そんな行動は全て無価値で、父にとって私は後継者を引き入れるための道具でしかなかったことをこのとき突きつけられたのだ。