「さっき言っただろ。俺はお前が最優先だって」
「……か、いり……あの、」
私に選択権など与えられているのだろうか。イエスの答えしか認められなさそうな雰囲気に完全に呑まれていると、目の前にスッとカードをかざされた。
「またお前が酔っ払ったときのために部屋取ってる」
「……っ、」
「行く?行かない?」
「……」
選択肢を与えられてもなお、やっぱり拒否権はないように思われた。
……いや、というよりも——……
「こんなところ、誰かに見られたら困るから……」
「っ、」
「二人で話せるところ、連れてって」
「……」
ジャケットの襟を摘んで恐る恐る見上げれば、「今日のお前、なんかずるい」とため息を吐いてから、エレベーターホールに向けて歩き出す。
海里が拒否権が与えなかったわけじゃない。多分、きっと……——
私の中にその選択肢が存在していなかった。ただそれだけだ。
エレベーターに乗り込んでも、二人の間に会話はなかった。暗黙の了解として、次に口を開くのは部屋に移動してからという認識が両者にあったと思う。
高層階の角部屋。胸ポケットから取り出したカードキーを扉にかざすとピピッと高い音が鳴る。
扉を開く時間なんてすごく僅かなものなのに、ソワソワと落ち着かなくて、繋いだ手を無意識に握りしめたりして……。
そうすれば、一度緩んだ大きな手が手の繋ぎ方を変えてくる。指と指を絡めたいわゆる恋人繋ぎ。
驚いて、緊張して。でも、ぎゅっと締め付けられた心臓が“離れたくない”と叫ぶから……私は仕方なく、手を振り解かないでいてあげた。


