海里とまりなさんが向かい合って何か話をしている。
彼女の手に持たれる2枚のチケット。声は聞こえないが、恐らく一緒に行かないかと海里を誘っているのだろう。
相変わらず上目遣いで海里を見上げ、デフォルトで首を傾げる姿があざとい。
海里に私という婚約者がいると知りながら、こんなところで彼を誘うなんてどういうつもり?
人目を避けたエントランスでそれを行うところが卑しさ満点。可愛い顔してハイエナ女子だ。
海里が手を前に出して顔を横に振るのを見てホッとしたのも束の間、彼女が彼の腕を掴んでさらに一歩詰め寄ったから……気づいたら衝動的に駆け出していた。
「……触んないで!」
「っ、」
海里の腕を掴んでいた手を弾いて睨みつけると、一瞬驚いたように開かれた瞳。次の瞬間、眉尻を垂らして怯えた顔をする。
……ずるい、そんな顔をするなんて。こっちが悪者みたいに。
彼女の手に持たれたコンサートのチケットを確認して奥歯を噛み締めた。
「どういうおつもりですか?もしかしてそのコンサートに彼を誘おうとしてたとか?」
「わ、私はただ……音楽の趣味が合う海里さんを友人としてお誘いしていただけで……」
「友人として?なるほど、もしかしたらそういうのもあるかもしれませんが、婚約者のいる男性を誘うだなんて配慮が足りないんじゃないですか?」
「そんな……」
腹の底のモヤモヤを全て吐き出すようにツラツラと彼女を責め立てる。
ウルウルした瞳で見上げられたって、そんなのに絆される私ではない。現場で培ったこの気の強さ。本気を出せば、この愛され、甘やかされることに慣れたご令嬢に負けるはずなどないのだ。
「一病院のご令嬢として、行動は慎まれた方がよろしいかと」
「……っ、」
「スロープアシストと土方HDの縁談をぶち壊す勇気があるなら……いつでもその喧嘩買いますけど?」
「なっ、……」
にっこり。先ほど鏡で確認した笑顔はこんなところで役立った。


