「はぁぁぁぁ……」
お手洗いに退避した私は飲食で取れたグロスを塗り直しながら大きな大きなため息をつく。
鏡に映るのは気の強そうな吊り目の女。まりなさんみたいな癒しの成分は恐らくゼロで、選んだドレスも彼女が着ていたフワフワパステルピンクのドレスとは真反対のタイトなブラックドレス。
「……」
ニコッと口角を上げてみるけれど、鏡に映るそれは想像していたものよりずっと意地悪なものでげんなりしてしまう。
『女の子は笑顔が一番可愛い』なんて嘘ね。あれは可愛い子限定だ。私みたいな猫目のきつい顔が笑ったところで悪巧みしているようにしか見えないらしい。
「あー、卑屈な女。せめてポジティブでいなさいよ」
再度ため息を吐きながらグロスをポーチにしまうと、後れ毛を耳にかけながら「私は私だ」と気合を入れる。
フワフワ可愛い顔じゃないけど、意志の強そうなこの顔は仕事の交渉には向いている。
大きな猫目も別に嫌いじゃないし、濃いメイクでも浮かないからむしろ好き。
女として負けていても、人間としては負けていたらいけない。
人を突き動かすのは劣等感じゃなくて、劣等感をかき消すほどの努力と自信だ。
女としての魅力は残念かもしれないけれど、海里の婚約者として恥ずかしくないように、人として凛としていよう。
そんな風に自分で注入した気合だったが、トイレを出てパーティー会場に戻るまでの道すがら、せっかく入れ直した気合いが霧散する憂鬱な光景に出会した。


