遅ればせラブアフェア


まりなさんに「それでは」と軽く会釈をして、私の腰に手を添える海里。

婚約者という私の立場を守るための行動か、もしくは彼自身の立場を守るための行動か。

どちらにせよ、助かった。先ほど海里の婚約者として挨拶してまわった手前、一人で会場内をふらつくのはあまりに惨めすぎる。


「ごめんね、話の邪魔しちゃって」

「別に。今日はお前が優先だろ」

「……」


前を見据えたままさらりとそんなことを言われて、不覚にもキュンと心臓で高い音が鳴った。

そっか、私を優先してくれるんだ。あんなに可愛い子との会話より私を……なんて。

先ほどまで漬物石にされたみたいに体が重かったのに、あっという間に足取りが軽くなる。呆れるほどに単純な女だ、私は。

海里と歩幅を合わせつつ、チラリと顔半分で振り返ってみれば、まりなさんが呆然と私たちを見つめていた。

視線に気がついてようやく私に目を当てた彼女は、キュルンと丸かった瞳の形を変えてジトリと私を睨みつける。

きっと彼女にとってみれば、私は意中の相手を奪う“悪役令嬢”。嫌われたって仕方がない。

でもね、別にそんなにいいもんじゃないよ。この立場。

結婚は本来二人でするものなのに、お互い感情が無いなんて虚しいよ?

それなら相手のことを好きになればいいじゃないって思うかもしれないけど、残念ながらそれも無理。

だって、自分だけが相手のことを好きなんて……もっともっと苦しくて切ない。


「……海里、前から言ってるけど、私は別にいいからね」

「……何が」

「今日はさ、流石に周りの目があるからまずいだろうけど……海里は私に囚われなくていいよ」

「……」


ほらね、苦しい。だから嫌なんだ。

私は海里を好きになりたくない。執着したくない。自由でいさせてあげたいし、自分だって自由でいたい。それなのに……——


「うるさい」

「っ、」

「俺はいつだって一緒にいる奴は自分で決める」

「……」


海里はいつまで経っても私から離れていってくれないね。

強く引き寄せられた腰元が熱くて、息を止めていなければ涙が溢れてしまいそうだった。