遅ればせラブアフェア


「嫌でも結婚!嫌いでも夫婦(めおと)!それが会社を背負う私たちに与えられた使命ってこと!」


勢いのままに告げると、海里は「はっ、酷い言い草」と小さく笑ってワイングラスの底を上げる。


「何よ、あんただって同じ気持ちのくせに」

「俺?俺は別に。昔から決まってたし、結婚を見越してスロープアシストに就職したわけだし」

「良いわよね、こだわりのない人って」

「は?」

「自分の人生にこだわりがないから躊躇することも悲観することもなく。好きでもない相手とのつまらない人生を受け入れられるんだ」

「お前な……」


相変わらずグチグチ呟く私に呆れた声を上げる海里だが、続く言葉はすんでのところで飲み込んで、代わりに深いため息が空気を揺らす。


「……そんなに嫌ならお前から破談を申し出れば良いだろ」

「いやよ!そんなの。負けたみたいじゃない」

「……誰にだよ」

「あんたによ。海里は承諾してたけど私が我儘言いましたーみたいになるのが嫌。嫌ならあんたが破談申し出てよ」

「クズ女」

「は?今なんつった」


今にも喧嘩が勃発しそうなところ、バッドかナイスかわからないタイミングでお皿を下げに来たウエイターさん。


「すぐに次のお食事お持ちします」

「はい、お願いします。それと彼女に次の飲み物を……」

「それじゃあ、彼の飲んでいる白ワインをいただけますか?」

「かしこまりました」


こういうとき、阿吽の呼吸で【恋人】を装えるのは、嫌いながらも長年婚約者を続けてきた成果かもしれない。