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「いやぁ、あんなに小さかった海里くんがもう結婚するような歳になるなんてね」
「はは、社長には小さな時からお世話になりましたからね」
「それにしてもお相手がスロープのご令嬢だとは。しかもこんなべっぴんさん捕まえるなんてラッキーだね、海里くん」
「これからよろしくお願いします。安次富社長」
都内のホテルに到着すると【土方HD周年記念パーティー】と掲げられた会場で早速関係者への挨拶回りが始まった。
姿勢を正してにこやかに。今日だけは、腰に添えられた海里の手を振り払うことなんてしない。
定型文の如く「よろしくお願いします」を繰り返し、事前に覚えてきた顔と名前を照合してはニコリと私がこれまでの人生で培った愛想笑いで応対する。
「猫被りの天才だな、お前」
「あんたこそね」
なんて、挨拶と挨拶の合間、笑顔をキープしながらのそんな会話もお決まり。
幼い頃から行き慣れた社交場でのお作法はお互い心配なく、私はただ奥ゆかしい女を演じて海里に着いていけばいいだけなので楽なものだ。
「二人は高校の同級生なんだってね。それじゃあお付き合いも長いんだ?」
「はい。高校大学と同じく学舎で過ごしましたので、もうほとんど家族、みたいな」
「居心地のいい存在です」
と、まあ……真っ赤な嘘もベーラベラ。長年一緒にいるおかげで辻褄合わせだけは完璧だが、残念ながら今こいつは、一緒にいて落ち着かない男No. 1である。
「若いっていいなぁ。海里くんは彼女のどんなところが好きなの?」
「え?……ああ、そうですねぇ」
大勢の中年男性と喋っていると時々いるんだ。こういう恋バナ大好きおじさん。
若い人の歯が浮くような話と恥ずかし戸惑う当人の顔が大好物なタチの悪いモンスター的存在だ。
さてはて、この手の話が一番苦手であろう海里はなんと答えるのか。
ちなみに私は私で海里の困った顔を見るのが大好物なモンスターなので、スマートに躱せないであろう彼の姿を楽しみにしていたのだが……
「いつでも真っ直ぐなところでしょうか。嘘がつけなくて目標に向かって懸命に努力する姿を尊敬しています」
「……、」
優しい笑顔でそんなセリフ。
ちょっと役作りが板につきすぎている……。


