「なんで?」と首を傾げる海里に、口を尖らせながら答えた言葉はいじけた子供のようなものになった。
「……海里がキスするふりして私をいじめたから」
「ふっ、キスされるって思った?」
「……思ったから、また馬鹿にされないように目、閉じたのに」
「……」
顔を赤らめながら不貞腐れる私を前に突然黙りこくった海里。
何とか言いなさいよ、という想いを込めて鏡越しに海里を見つめると、丸めていた背中を徐に立ち上げて、それからため息混じりに呟いた。
「……へぇ、今の結構……やられたわ」
「え?……っわ、ちょっ、」
一度離れた距離が、再び詰められる。今度は鏡越しなんかじゃない。顎に当てた手によって横を向かされると、正真正銘、生身の彼が私に迫り来る。
今度こそ明確な意思を持って近づいてきていると確信した。
何度かこの唇に触れた彼の柔い感触を思い出し、差し込まれる熱の温度を思い出し。
目を閉じるか迷ったが、……やっぱり勘違いかもしれないのでじっと瞳を開けて耐え忍ぶ。
私の顔を余すことなくじっと見つめる海里。毛穴とか、小さくできたニキビとか……そういうのに気づかれているかもしれないと思うだけですごく恥ずかしくて泣きたくなる。
海里になんてどう思われてもいいはずなのに、彼の目に少しでも綺麗な自分を映したい、なんて……本当にどうしてしまったんだろう。


