遅ればせラブアフェア




優雅な音楽がかすかに流れる店内。カチャカチャとナイフとフォークで前菜のテリーヌを切り分けながら、無駄に整った鉄仮面と対峙する。


「そろそろ式の日取り決めろって親父が」

「そうね。形式上、顔合わせ会も必要だろうし」

「式場の希望とかあるか?」

「んー、なくはないけど。私たちの希望だけで決められるものでもないしね」

「まぁな」


飛び交う“結婚”に纏わる単語に似つかわしくないローテンションで交わされる会話。まだ仕事中の業務連絡の方がテンション高く話せているかもしれない。


「どうせあれこれ文句言われるんなら、全部親が決めてくれたらいいのにね」

「そういうわけにもいかないだろ。俺たちの式なんだから」

「はぁ〜相変わらず頭固い男!“俺たちの式”って、好き同士でもないのに、準備のモチベーション0じゃない」

「……」


ゲェーっと顔を歪めて舌を出せば、「なに子どもみたいなこと言ってんだ」と言いたげな海里がこちらを見る。

こういう軽口にも付き合えないなんて、本当面白味のない男だ。

少しくらい現実逃避させてくれたっていいのに、現実主義者なこいつはとにかく仕事と同様、淡々と計画を進めていきたいらしい。


「あーはいはい、分かってるよ!」

「へー、何を?」


テストでもするように尋ねてくるからいちいち癇に障る。

私が本気で結婚を投げ出そうとしているとでも思っているのだろうか?

文句は言えど、ちゃんと自分の立場くらい理解しているし、この結婚がもたらす両者へのメリットも散々両親に教えられてきた。それはもう10年以上前からずっとね!

少しお行儀悪く口の中に放り込んだ最後のテリーヌ。咀嚼を終えるとすぐに海里を睨みつけた。