「南萌、お礼してよ」
「お、お礼?」
「ここまで一緒に運んでやったお礼」
口角を上げて笑うその顔はやけに楽しそうで、私の第六感がなんとなく危険を察知する。
「なによ、勝手に手伝っておいて図々しい」
「でも、助かっただろ?」
「それは……そうですけど」
「じゃあ、俺の労力に対する対価を払え」
「……」
えっらそうに……と思いつつ、まあ確かに海里が手伝ってくれなかったら一人でヘトヘトになっていたことだろう。
「ジュースくらいなら奢ってやろう」
「社長の娘のくせにケチだな」
「はぁ?あんただって社長の息子のくせに金品をせびるなんて下品よ」
「別に、誰も金品を求めてるとは言ってねーだろ」
「……えっ、ちょ」
腕を掴まれて引き寄せられたと思えば、いつの間にかクルリと体を反転されて。気づいた時には会議室の入り口を背に海里を見上げる体勢をとっていた。
再び息がし難い距離。目を逸らしたいのに吸い込まれそうな瞳に見つめられれば、石にされたみたいに体が動かない。
「お礼、これでいいよ」
「へ、かい……」
夕日が差し込み始めた会議室。太陽の赤を背負った彼の影に覆われて……目を閉じる暇もなく、柔い唇が重なった。


