「ほんと、髪ボッサボサ」
「誰のせいよ」
「俺、だろ?」
「……っ、」
言いながら、後ろで束ねていた髪をするりと解かれた。
驚いて固まっているうちに手櫛で髪をとかす海里は「髪、柔らかいな」と表情を緩ませて。その視線が、指先が……あまりに優しいものだから、胸にかかったモヤの色が黒から白に浄化されていく。
(なんだこいつ、この間から。前まではこんな簡単に触ってこなかったのに……)
どうしていいか分からずに、大人しく髪をとかれていれば、数秒後、指で髪を一つに束ねた海里が私の顔を覗き込んだ。
「何これ。結ぶまでしてあげたほうがいいの?」
「……っ、」
あまりに近い距離に息を呑む。カッと一瞬で赤く染まった顔が燃えるように熱い。
「い、……いい!自分でやる!」
「あーそう?」
慌てて彼の腕の中から抜け出すと、海里は満足したようにニンマリ笑う。
指先にぶら下げられた髪ゴムを引ったくって睨みつけると、惚けた顔でコテンと首を倒された。
「あ、あんた……わざとでしょう」
「何が?」
「男慣れしてない私をドキドキさせて楽しんで……」
「へぇ?ドキドキしたんだ?」
「……っ、し、してない!」
絵に描いたような墓穴を掘った。恥ずかしくてもう海里の顔が見られない。
髪を結ぶフリして俯いて。可能であれば、このまま先に出て行ってくれと願ったけれど、土方海里はそんな願いを叶えてくれるような男ではない。


