遅ればせラブアフェア



B病院を出て会社に到着すると、「車停めてくるから先に戻ってていいよ」と玄関口に車を停車した海里。

社用車の駐車場はやや離れた場所に設置されているため、お言葉に甘えて「ありがとう」と素直に降車する。

「荷物は持って降りるね」と後部座席に置いていた資料を手に取れば、「は?重いからいいよ」と少し驚いたように返された。


「何でよ。重いからこそ駐車場から運ぶの大変でしょ」

「いや、でも……」

「いいから、あんたもサボらずさっさと戻りなよ?」

「あ、おい!」


この押し問答は長くなりそう、と。半ば無理やり会話を切り上げて車に背を向ければ、数秒後玄関口から離れていく車の音が耳に届いた。

右手にはパソコンが入ったビジネスバッグ、左手には資料が詰まった紙袋。

ズシッと両手に負荷は感じるが……私は割と力がある方だ。

こういうところでも男に負けるなんて嫌だから、「重たいものなんて持てない……(きゅるん)」みたいな如何にも社長令嬢的な発言は一生してやらないと決めている。

しかしながら、両手が塞がっている状態でどうにかこうにかエレベーターのボタンを押そうとしていれば、受付を担当していた秘書課の女性が飛んできて私より先にボタンを押しちゃうんだから嫌になる。


「南萌お嬢さま、こんなに沢山荷物抱えて……社長に叱られてしまいます!」

「大丈夫よ〜。心配してくれてありがとね」

「どなたか手伝いを呼びましょうか?」

「いやいや、絶対やめて?私だけ特別扱いとか嫌なの」

「ですが……」


よく教育された秘書課の女性は申し出を断られてもやっぱり納得いかないようで、「せめて、目的の階までお供します」と一緒にエレベーターに乗り込んだ。

こうやって気を遣ってくれるのはありがたい。でも、やっぱり申し訳ないし、できれば他の社員と同じように接して欲しいと思ってしまう。


(まあ……そんなの、普通に考えて無理だよね)


私が逆の立場でもきっと同じことをするだろう。いくら普通に接して欲しいと言われたところで、自分が働く会社の“社長の娘”なんて扱いに困るに決まってる。