確か倉野院長には優秀な娘さんがいたはず。院長が出ている医療雑誌にB病院の医師として登場していた。
見たところ、武さんより彼女の方が随分しっかり
していそうだが……、ここでも病院を継ぐのは“彼”なわけだ。
(こんなチャランポランでも家業を継げるのになぁ……)
そんなひどい言葉が嫌でも頭に浮かんでしまう。
生まれた瞬間に後継者としての席が用意されていて、能力が追いつかなくたって、他に適任がいたって……“長男”という圧倒的なステータスが後継者の地位を守ってくれる。
羨ましくて、羨ましくて、噛み締めた奥歯が擦れ切れてしまいそうなほど。こんな思いを今までの人生で何度も重ねてきた。
「初期導入の機器については向坂が今までに担当した事例から最低限必要なものを一覧でご提示できるかと思います」
「はい。もしよろしければ一覧と併せてお見積もりを作成させていただき、そこから取捨選択していただくようにいたしましょうか?」
「ああ、じゃあその形でお願いしようかな」
適切なタイミングで、担当の私を食うことなく話の流れを作ってくれる海里。こいつとの仕事はスムーズで、的確で、とにかくやりやすい。
「なんか分かんないけど、向坂さんが選んでくれるなら間違い無いっすね!」とこの場に合わない笑顔で返す武さんとは大違い。
こういう典型的な“馬鹿息子”に対する妬みよりは、海里に対する対抗心の方が幾分爽やかだ。
優秀な彼に勝負を挑むときだけは、妬みも嫉みも捨てて、ただ上を目指していられる。


