「……」
「……」
普段乗っている黒塗りの高級車からはかけ離れた"乗れればいい"だけの白い軽自動車。狭い車内、私は助手席に乗っていて、その隣の運転席でハンドルを握るのは……いつものおじさん運転手ではない。
「向坂。もうすぐ着くから降りる準備しろよ。時間ギリギリだから着いたらすぐ出るぞ」
「……わ、分かってるわよ」
進行方向を見つめたままいつも通りの無表情で声をかける海里。一方私は、無意味に剥れながら、後部座席に置いている資料に手を伸ばした。
週が明けて2日、火曜日の本日。海里と共に彼が担当しているB病院を訪問することとなった。
なんでもB病院の院長が敷地内に介護施設を開業予定とのことで、この介護施設への医療機器新設業務一式を私が引き継ぐこととなったのだ。今日はそのご報告と初回のご挨拶。
月の序盤で取引先一つゲットはすごくありがたいことなのだが、それが奴からの紹介というのがなんとも癪……という気持ちが3割。
『ふ、嘘つき』
『……もっとして欲しいって、顔に書いてる』
「……っ、」
「何してんの、早くちゃんと座れよ。危ないだろ」
後部座席に腕を伸ばしたまま、先週末の出来事を思い出してフリーズする私にかかる呆れた声。
……誰のせいでぇ?と、恨み節を心の中で唱えながら助手席に座り直そうとしたその瞬間。
「っと、南萌……」
「え?……おわっ、」
キキィーっというけたたましい音と共にこちらに伸びてきた長い腕。目の前には曲がり角から突然飛び出してきた赤いスポーツカーがあった。


