「好きな人じゃなきゃ……嫌なんだろ」
「……え?」
「乙女のポリシーってやつ。……守ってやったんだから感謝しろ、馬鹿」
「……」
微かに「まあ、俺も同じ気持ちだし」と聞こえた気がしたが、どういう意味か尋ねようとした時にはすでに洗面所に姿を消していた。
同じ気持ち、つまりは海里も好きな人とじゃなきゃああいうことはしたくないってこと。
そっか、そうだよね。からかい半分、勢い半分であんなことしたけど……つまりは「お前のことなんか好きじゃねぇから抱けない」ってこと?
「……」
心臓がチクリと痛んだ。別にこっちだってあんな奴願い下げなのに、どうして私がこんな気持ちにならないといけないんだ。
「海里の馬鹿。そんなこと言ったって……いつかは私と子ども作らなきゃダメなんだからね?」
そう。私たちは好きじゃなくても結婚する。跡取りのために子孫を残すことは必須。
つまり、どんな理想を掲げたところで……いつかは体を繋げなければならないのだ。
「海里となら、案外できるかもとか……思ったのに」
ポツリと呟いてすぐ、うあああっと奇声をあげて抱えていた枕に顔を押し当てた。
(うそ、出来ない!違う!私はしたかったのに、あいつはしたくないみたいなこの構図が無理!負けたみたいじゃないかぁぁぁ……!)
誰に聞かせるわけでもなく、自分自身に言い聞かせる。
私は土方海里のことなんて好きじゃない!え、エッチなんて、結婚して必要に迫られた時しかしてやらないんだから!
夢とプライド、愛情と性欲を拗らせた
10年来の婚約者。
さてはて、
遅れてきた二人の恋(?)の行方は……?
01.犬猿の婚約者
—end—


