遅ればせラブアフェア



「や、やだ……っ!」


なんとか手繰り寄せた理性で海里の胸を押せば、案外簡単に離れた唇。

たった数秒のキスでこっちはハァハァと息を荒げているというのに、余裕な顔で自分の唇についた唾液を舐めとる海里に勝手に負けた気分になる。


「……何、すんのよ」

「キスだけど」

「こ、こういうのは、好きな人とするものでしょ!」


非難したくて言ったのに、フッと柔らかく笑われた。その表情があまりにも優しくて、怒りも忘れてポカンと見上げれば、再び横髪を撫でられる。


「キスも初めてだったのか?」

「……えっ、」

「なぁ、教えろよ。婚約者だろ、知る権利がある」

「……」


そんなこと、聞かなくても知ってるくせに。10年、同じ高校、同じ大学、同じ会社に就職して……私の横にあんた以外の男が立っていたことがあった?

あえて聞くなんて、意地悪だ。やっぱりこいつはすこぶる性格が悪い。


「な、なかったら……なんなのよ」

「んーいや?別に?」

「言っておくけど!出来なかったわけじゃないんだからね?!そりゃああんたに比べたら少ないけど……告白されたことは何度もあるんだから!」


何の負け惜しみか、聞かれてもいないことをベラベラ話す私に「へぇ、じゃあ何で?」と流れるように尋ねた彼。

あまりにスムーズだったので、つい口から言葉が滑り落ちた。


「そりゃあ、初めては未来の旦那さまのために取っておかなきゃ……って、あ。」

「……」


間抜け、間抜けの大間抜け。私の乙女なポリシーを……よりにもよってこいつに知られてしまうだなんて。