遅ればせラブアフェア




掲げた拳を掴んだ大きな掌。細っこいと思っていたのに案外力強くて驚いた。

喚く余裕も無くなって、爆音で鳴る心臓に泣きたくなりながら……そんな弱い自分はやっぱり見せたくなくて目を逸らす。


「手、出さないんじゃないの」

「寝てるお前には断じて手ぇ出してない。でも、誰も出さないとは言ってない」

「は?」

「……変態、獣、最低。散々言ってくれたな、お前」

「なっ、」

「これから結婚するって相手に随分な言い草だ」

「……」


ベッドの縁に座っていたはずの海里はいつの間にかシーツの上に膝を立てていた。後ずさってもベッドボードに背が当たって逃げ場がない。


「顔、熱いけど……熱ではなさそう」

「かい、り……あの、」

「じゃ、いいよな。お前の純潔もらって」

「は?……んぅ?!!」


頬に触れた指先がさらりと横髪を掻き上げた刹那、25年間、誰も触れたことのない唇に柔らかな感触が触れた。

手練れのスピードに呆気に取られるど素人。頭が現状を把握しないうちにクイっと顎を上げられて、温い舌が口内に侵入した。


「んぅ、……んんっ!」

「はは、下手くそ」


ほんの少し唇が離れた瞬間、馬鹿にしたように笑う海里の声色は楽しそうに弾んでいた。

何これ、意味がわからない。何が起こっているんだ。

頭の中で、これは夢なのではないかと考えるたび、決して夢では味わえないリアルな感覚に引き戻される。

口内を我が物顔で蹂躙する彼の舌。嫌なはずなのに、頭がぼうっとして抗えない。