カモフラなのに溺愛されても困ります!

着物で全力疾走して、タクシーの中で呼吸困難になるほど、ハアハアしていた。

冷静さを取り戻すように深呼吸を繰り返す。

彼のスペックは完璧だった。

立ち振る舞いも何もかも全て。

そんな彼に、本命がいないわけないじゃない。

しかもあんなに優しいトーンで柔らかい笑顔まで見せて。


「……ばか、泣くな」


さっきの電話の光景が蘇り、涙が浮かんできた。

悲しい……わけじゃない、悔しいんだ。

少しでも彼に心を動かされてしまった事が。

警戒心を解いてしまった自分を殴りたくなる。

もしも、時間を戻せるのなら、今度は絶対にときめかないのに!



家に着き、自分の部屋に駆け込む。

一刻も早く着物を脱ぎたかったけれど、結び目が固くて、なかなかほどけない。


「おじいちゃん、ごめんね。……せっかく用意してくれたのに」


上手くいかなかった事を悔いているわけじゃない。

騙されて、心を開いてしまった事を後悔しているのだ。