カモフラなのに溺愛されても困ります!

着物の裾を少し気にしながら歩いていると、彼が少しだけ歩調を緩めてくれた。


「綺麗ですね」


彼が池の方を指差す。

水面には逆さに映った紅葉が揺れていて、まるで鏡のようだった。

朱塗りの太鼓橋が、赤や橙の葉に囲まれて、絵画のような景色を作り出している。


「はい……」


相変わらず上手く言葉が出てこない。

心臓の音が聞こえそうなほど静かで、ししおどしの音だけが規則正しく響いている。


「緊張、されてますか」


不意に彼が尋ねてきた。

驚いて顔を上げると、彼は少し困ったように笑っていた。


「実は僕も、すごく緊張してるんです」


その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。

完璧に見えた彼も、同じように緊張していたんだ。

……いや、でも、何で?

まさかとは思うけど、彼はこのお見合いを成功させるつもりで来てるって事?

いやいやいやいや、それはないない!

もう緊張しすぎて、正常な思考ができない。

……もしかしたら、私がいなくなった席で、西園寺夫妻はお断りを入れているかもしれないし。

危ない危ない。

坊ちゃんがあまりに王子様過ぎるから、私まで変な魔法がかかるところだった。

所詮、私は西園寺とは釣り合わないのだから、余計な事を考えるのをやめよう。

その時、風が吹いて、紅葉の葉が数枚、私たちの間を舞い落ちた。