カモフラなのに溺愛されても困ります!

相手が西園寺グループなのだから、やっぱりそうなるよね。

名前だけで足がすくんでしまうくらい。

……その相手に私は、こんな格好をしていくのか。

深いため息をつくけれど、車は目的地に向かって走り続ける。


青楓庵の門をくぐると、石畳の小径の両脇に、燃えるような紅葉が広がっていた。

風が吹くたび、深紅や橙色の葉が舞い落ちて、苔むした庭石の上に色を添える。

案内された離れの個室からは、池に架かる朱塗りの太鼓橋と、水面に映る逆さ紅葉が一望できた。

障子越しに差し込む秋の柔らかな光が、畳の上に木漏れ日の模様を描いている。

庭からは、ししおどしの音が規則正しく響き、静寂を際立たせていた。


「敵はまだ姿を見せていない……っと」

「ちょっと、やめなさいよ、楓」


席に着いてからスマホを取り出し、実況中継するかのようにメッセージを送る。

すぐに既読が付き、琴音はなぜか「ワクワク」という可愛いスタンプを送ってきた。


『ドタキャンしたかもよ?』


メッセージですら毒舌な彩羽に思わず笑ってしまった私。