今夜初めて見た私服。
オフホワイトのシャツのえりとそでを、ペールグリーンの薄手のセーターから見せている。
ゆったりしているベージュのロングスカート。すそだけがふんわり広がる。履きやすそうな茶色のローヒール。会社で見るスーツ姿とはまるで別人だ。(どちらも僕は好きだよ)

出会った頃より少しだけ高い声で話す。少しだけ口数が増える。あなたって笑い上戸だったんだね。知らなかった。
淡い光も白い花の香りもすべて今宵の演出。あなたを輝かせるための。
あまりにもあなたが楽しそうに笑うのが奇跡に近くてひとつも取りこぼしたくない。ずっと見ていたい。お酒の力を借りてまなざしがちょっと大胆になる、今宵。
不意に、
あなたが僕のすねを軽く蹴った。

水盤の花がほんのりミステリアスに香り、あなたが遠くなった気がしてグラスに添えられた左手の指を指で追う。軽く触れて握りしめる。こわさないように。でも、確実に。

もっとあなたのことをおしえて。

言葉を発するのがもったいないほどの夜だ。あなたは酔いで赤く染まった唇でときどき長いため息をつく。ほどよい倦怠感をたのしんでいるらしい。

淡く優しく微笑んだあなたを清らな水に浮かべてみたい。

どうやって切り出そうか迷っているんだよ。なかなか減らないマティーニ。握りしめるだけの指。
どうしたら誠実に伝わるかずっと考えているんだよ。すべてがおぼろげでもしかしたら明日にはなかったことにされているかもしれない夜。

どうやってあなたに口づけしようか考えている。

ギムレットの色をした月の下、ただ、あなたの細い指を握りしめるばかり。甘くせつない香りに惑うばかり。


2025.09.04 過去作再編集。
Mika Aoi 蒼井深可