「ローズちゃんかい?」とマスターが僕のスマホを覗き見してきた。
「なるほど。今日は17時か」
「いけそうですか?」
「大丈夫。うちの店はローズちゃん優先だから」
16時30分になると、マスターは『CLOSED』の札を店の入り口にかける。そして、今残っている常連客の話を、さっきまで愉快に聞いていたのに、急に冷めた態度で受け流し、声に出さず、退店を促す。
そして、17時ぴったり。ローズは『CLOSED』の札を無視して、入店する。
「やあ、ローズちゃん。いつものかい?」
「ええ、いつもの」
そして、ローズは一番奥の席に座り、11インチのパソコンを開く。そして、メガネをかけ、両手の指をポキポキと鳴らして、タイピング。
僕は制服姿のまま、ローズの対面に座った。
「今日はどんな話?」
「そうね、強いて言えばサスペンスかしら。売れないバンドマンが、ギターで家中を破壊するシーンを書いているわ」
「それはずいぶん、物騒な話だ」



