夜は拾ったランタンの明かりで、拾った本を読む。詩集や小説、旅行雑誌なんかもあった。
誰が落としたのか、私立大学の赤本で数学の勉強をすることもある。全ては暇つぶしで、しかし人間だった頃にはできなかった無駄で贅沢な時間の過ごし方だ。
「おい。いるか?」
ログハウスの扉をノックする音が聞こえて、扉を開けるとハイイロオオカミの奴が目を光らせて立っていた。
「今夜は何を読んでいるんだ?」
「小説。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』だ」
「ほお。それはまた随分人間らしいものを読むんだな」
「人間だからな」俺はハイイロオオカミを家の中に通した。
「それで、こんな夜更けに一体どうしたんだ?」
「俺たちオオカミは夜に活動する。お前たちでいうところの日中が今さ」
「そうだったな。そういえばちょうどシカの干し肉があるんだが、食っていくか?」
「いや、いい。急ぎの用なんだ」
「急ぎ?」



