ローズ・ローザ・ローゼス





気がつくと、ボストンバッグに着替えやら、いろんなものを詰め込んで、玄関の前に立っていた。


気がつくと、玄関のドアの鍵をかけ、ボストンバッグを抱えて走り出していた。


気がつくと、その足でバス停に向かい、やってきたバスに乗っていた。


行き先は当然、決めていない。かと言って、このバスは私が望む遠くまでは運んでくれない。


終点は所詮、最寄り駅前程度。逃避行にしてはあまりにも規模が小さい。


私はまだ分岐点にいる。


意を決して飛び出した、あのヘタクソな合掌造りみたいな屋根の細長い家に、今ならまだ帰ることができるという分岐点。


駅前でケーキでも買って、パスタを茹で、市販のパスタソースを湯煎しただけのお粗末な食事の後のデザートにすることだってできる。


できるのに、私の気持ちはもうすでに決まっていて、もっと遠く、もっと遠くへ行きたがっている。