乱暴に布団を跳ねのけた夫は、やっと起き上がり、わざとらしく足音を大きく、ドスドスと、洗面台に向かう。眉の、中央に窮屈に寄った顔を洗い終えると、洗面台にかけてあるタオルで顔を拭くのだが、どうやらこのタオルが、まだ私が使った後で湿っていたらしく、
「くそ、タオルくらい変えておけ!」
と洗面所から湿ったタオルが飛んできた。
それからまた足音ドンドン。大きく鳴らしながらリビングにやって来て、新聞を広げ、貧乏ゆすりをしながら、わざとらしく大きなため息を何度もついた。
「お前はほんと、起こし方が雑なんだよ」
とグチグチ。
私が焼いたトーストと、私が焼いた目玉焼き、私が茹でたウィンナー、私が昨夜の夕飯で出して残ったマカロニサラダを夫の前に置くと、夫はそれらを新聞の片手間に食べながら、
「コーヒーは?」
と聞いた。
「ごめん。すぐ淹れるから」
「はあ? もういいわ。いらん!」
と、新聞も、朝食も途中で放り出して、リビングを出ていく。
そして、一通りの用意を済ませると、玄関まで出迎える私に向かって言った。
「付き合いが長いからってだけで結婚したらダメだわな。こういうことになるんだよ。お前が仕事を辞めて専業主婦になるって言ったときは、正直心底腹が立ったよ。何、全部俺に丸投げしてんのってさ。お前はいいよな。一日中家にいて、ゴロゴロして、それでいて『専業主婦』って肩書きに守られてさ。羨ましいよ。憎たらしいほどにね」



