スマホのアラームは、燦然と。
まだ重たい身体を左右に、ねじり、よがり、漏れる吐息は、初めての経験のそれのように、一瞬の快楽。果てしない暗闇を生み出す粘着質なまぶたをこすれば、浮かぶ百鬼夜行。でも、それも一瞬。手を伸ばせば、止まる。また身体を左右に、ねじり、よがり、私は今日を出迎える。
隣には、口を半開きにしたまま眠る夫。ぐっすり眠る呼吸に合わせて上下するなで肩。私はそのなで肩を優しく努めて2度。
「ねえ、起きて。朝よ」
トントン、と。しかし夫は私に背を向けて寝返りを打ち、起きる気配はない。だからと、今度は反対のなで肩を、やっぱり優しく努めて2度。
「起きて、起きてってば!」
トントン、と。すると夫は、まるで拷問でも受けているかのように、大きなうめき声を上げると、両腕を、ベッドの柵を突き抜けるほど長く、真っ直ぐに伸ばし、物心をつける赤ん坊のように目を開けた。
「おはよう。もう朝だよ」
夫は、私のそれには反応を示さず、まるでカバのように、大きな口であくびをする。しかし、この口。私の愛した口で、優しい言葉も、酷い言葉も、すべてこの口から発せられたものだ。さて、今朝はどっちだろう。私はクリスマスを待ち望む子どものように、胸を躍らせていた。
「うるせえんだよ!」



