ローズは言った。
「あのね、アイデアが、こう、吐き気みたいに込み上げてきて、吐きそうになる。そんな感覚になるときがあるの」
僕は、その感覚がわからなかった。
「どういうこと?」
「つまりね、気分が悪いの。とっても、吐きそうで。緊張しているのかしら。とにかく、そんな感じ。ほら、幼稚園児の頃の発表会のこと、憶えてる?」
「ああ、憶えてるよ。たしか、海の世界の王様の役をやったんだ」
「その時、初めて緊張というものをしたんじゃないかしら? そして、胃がムカムカと気持ち悪くなって、吐きそうになった。違う?」
「うーん、どうだろう」と僕は少し考えて答えた。
「トイレに行きたくなったんだ。でも、本番が始まっちゃって。終わるまで我慢しなきゃって、そればっかり考えてたんだと思う」
「じゃあ、もういいわ」とローズは話を切り上げた。
「行きましょう。メロンパンが売り切れてしまうわ」



