わたしはこの手紙の差出人に、会った事がなかった。
あれは、中学2年の冬···――――
当時14歳だったわたしは、冬休みで一日中家の中で過ごしていた。
共働きだった桐島夫妻は、平日の朝から夕方まで不在で、勝手な外出を禁止されていたわたしは友人に会えるわけでもなく、家事をしながら毎日を過ごすしかなかった。
年末年始は夫婦二人で旅行に出掛け、わたしは一人でお留守番。
そんな時、ふと目に付いたのがリビングに置いてあるパソコンだった。
少し前に桐島の母が年賀状作成の為に使っていたパソコンで、普段はあまり使われる事が無い。
わたしは何気無く、そのパソコンを起動し、その頃に10代の間で流行っていた"Calm"という友人や共通の趣味を持つ人と交流が出来るSNSを検索し、開いてみた。
スマホを持たせてもらっていなかったわたしは、友人の会話の中で"Calm"の存在を知っただけで、利用はした事がなかった。
無料で誰でも簡単に利用する事が出来る"Calm"の中へ入ってみると、そこはたくさんのスレッドと同年代くらいの人々で溢れていた。
その中で一番最初に目に付いたのが『冬生まれの人!』というスレッドだった。
1月生まれのわたしは、ただそれだけの理由でスレッドを開いてみた。
するとそこには、たくさんの冬生まれの人たちが集い、誕生日の話で盛り上がっていた。
みんなは、いつ誕生日なのか、何歳になるのか、誕生日プレゼントに何を貰うのかを話し、互いに"おめでとう"を言い合っていた。
孤児院に居た頃は、一ヵ月に一度行われる誕生会でまとめてお祝いをしてもらっていたわたしだったが、桐島家に来てからは誕生日を祝ってもらった事はなかった。
『1月13日生まれです』
初めて書き込んだわたしのコメントに、一番最初に反応を示してくれたのが"ジュリア"だった。
ジュリアは引っ込み思案のわたしにも積極的に話し掛けてくれ、その会話の中でお互い"孤児院出身"である事、年齢が同じ事、住んでいる地域が近い事が分かると、一気に距離が縮まっていった。
ネットを返したジュリアとの交流は、その日だけでは飽き足らず、わたしは次の日もその次の日もパソコンを開いてはジュリアと個人チャットで会話を弾ませた。
桐島夫妻が旅行から帰宅し、仕事が始まってからは、桐島夫妻が仕事で不在の平日9時から18時までが、わたしにとってジュリアと交流出来る貴重な時間となった。
そんなジュリアをわたしはすっかり同じ女子だと思い込んでいたのだが、ある日、ジュリアが一人称で"俺"を使った事により、女子ではなく男子なんだという事に気付いた。
最初は驚いたがジュリアに変わりはなく、いつも明るく、会話のキャッチボールが致命的なわたしから言葉を引き出し、楽しませてくれるジュリアにわたしはいつしか恋心を抱くようになっていた。
ジュリアとの交流が深まっていく中で知ったのだが、ネット上での名前を"ジュリア"にした理由は、当時ハマっていたゲーム内での好きなキャラクターの名前が"ジュリア"だったからという単純なものだった。



