初恋のジュリア


「あ!す、すいません!あのぉ、わたし怪しい者じゃありません!ここの住人で!」

もしかしたら怪しい人物だと勘違いされたかもしれない不安から、慌てて言い訳するわたし。
そんなわたしの姿に、最初はキョトンとしていた男性だったが「はははっ!」と笑い出した。

「分かってますよ。お隣さんですよね?303号室じゃないですか?」

そう言う男性の言葉に、わたしはハッとする。
よく見ると、その男性には見覚えがあり、引っ越して来たばかりの時に挨拶をしたお隣さんである事を思い出した。

「あ、そうです!303号室です!」
「俺は302の篠宮(しのみや)ですよ。」

そう言って微笑む篠宮さんはとても爽やかで、思わずドキッとしてしまった。
目鼻立ちが整っており、美形の篠宮さんは万人受けするようなイケメンだ。

「それで、こんなとこでどうしたんですか?寒いのに、中に入らないんですか?」

篠宮さんはそう言いながら、302号室のポストを開け、郵便物を取り出した。

「あ···えっと、そのぉ···実は、鍵も持たずに買い物に出てしまって······」
「あー、なるほど!それは焦りますね。」

篠宮さんはそう言うと、コートのポケットから鍵を取り出し、オートロックの扉を開けてくれた。

「はい、開きましたよ!入りましょう。」

そう言って、中へと促してくれる篠宮さん。
わたしは中に入れる嬉しさから自然と頬が緩み、「ありがとうございます!」と大袈裟という程に頭を下げた。

そしてエレベーター前まで来ると、上を指す矢印ボタンを押し、丁度1階で止まっていたエレベーターのドアが開く。
わたしを先にエレベーターへ乗せてくれた篠宮さんは、エレベーター内に入ると"3階"のボタンを押した。

エレベーターの狭い空間で篠宮さんとの距離が近くなり、少し緊張してしまう。

(篠宮さんって、綺麗な顔してるなぁ···何歳くらいなんだろう。20代後半くらい?身長も180くらいあるのかなぁ。)

篠宮さんを斜め後ろからこっそりと観察し、そんな事を考える。
すると、篠宮さんが不意にこちらを振り向き、わたしは慌てて目を逸らした。

(こっそり見てたのバレちゃったかな?!ビックリしたぁ······)

「桐島さんは、今日お休みですか?」
「はい、基本的に土日はお休みなんです。」

わたしはそう答えながら、(苗字、覚えててくれたんだぁ。)と驚いた。

「篠宮さんは、お仕事だったんですか?」
「はい、急遽仕事が入ってしまって。でも午前中で終わったので、早く帰って来られました。」

そう言い微笑む篠宮さんは、コートの下にグレーのスーツを着ていた。
篠宮さんがピシッと決まっている服装なだけに、わたしはラフ過ぎる自分の格好が恥ずかしく思え、顔が火照っていくのを感じた。