それからお腹が満たされて牛丼屋を後にしたわたしは、白い息を吐きながら週末で賑わう街並みを歩き、微かに星が光る空を見上げた。
家に土日分の食材が何も無い事に気付いてはいたが、これから買い物をして帰る気力も残っておらず、わたしはそのまま真っ直ぐ自宅マンションに帰宅した。
「はぁ···疲れたぁ。」
そう呟きながら浮腫んだ足をパンプスから解放し、誰もいないリビングの電気を点け、シンプルなベージュ色のカーテンを閉めると、わたしはトートバッグごとアイボリーの2人掛けソファーに脱力して腰を落とした。
(お風呂すら面倒くさい···けど、さすがにシャワーは浴びなきゃなぁ。)
このままソファーに身を委ね過ぎていると動けなくなりそうで、わたしは自分に気合を入れると、重たい腰を上げてバスルームへと向かった。
本来であれば、ゆっくりと湯船に浸かって疲れた身体を癒してあげるべきなのだろうが、今のわたしはその時間さえも惜しいと思ってしまう程に心身共に疲弊していた。
(少しでも早く布団に入りたい。)
そう思い、わたしはササッとシャワーを済ませると、簡単にスキンケアをして歯を磨き、帰宅して一時間も満たない内にベッドに倒れ込み眠りについたのだった。
『―――···がい、···お願い!お願い···助けて!』
必死にそう叫ぶ女の人。
長い黒髪に色白で···綺麗な人。
『お願い!助けてください!』
(誰?助ける?何を?)
『お願いします!助けて···助けて···助けて!!!』
「―――――っは!!!」
目が覚めると、そこには見慣れた天井が広がっており、眠っていたはずのわたしは息を切らしていた。
(何···?今の夢······)
わたしは乱れた呼吸を整えるように深呼吸を繰り返す。
ふと横に顔を向けると、閉まったカーテンの隙間からは光が零れていた。
(もう、朝かぁ。)
そう思いながら、わたしは枕元に置いたはずのスマホを手探りで掴み、時刻を確認する。
初期設定から変えていない、どこなのかよく分からない風景のロック画面には"12時34分"と表示されていた。
(え、もうこんな時間?随分寝てたんだなぁ。)
わたしはまだ開き切らない瞼を擦り、疲れが残る重たい身体をゆっくりと起こした。
そして布団から出てベッドから下りると、その寒さに身震いをした。
リビングに向かいカーテンを開けると、そこには真っ白な雪景色が広がっており、見飽きてしまった雪の鬱陶しさに溜め息が溢れた。
(わぁ···また雪降ってる。)
わたしが住むこの地域では、今時期が一番雪が多く、気温も下がる。
冬のこの寒さは、普段の寂しさをより際立たせているような気がした。
(寒い日は、なかなかベッドから起きられなくて、よく悠史とグダグダ過ごしたっけ。)
思い出したくない悠史との事を思い出してしまう程に、わたしの心には冷たい隙間風が吹いていた。



