会社から自宅マンションまで、徒歩で通勤が出来る距離の為、車でわたしの自宅に到着するまではあっという間だった。
わたしは福永さんに「ありがとうございました。」と言い、シートベルトを外した。
「いえ、気にしないでください。」
「本当に助かりました。じゃあ···、お疲れ様でした。」
わたしはそう言って、車のドアを開けようとした。
すると、「あ、あのぉ·····」と福永さんはわたしを引き止めた。
「はい。」
車のドアを開けようとした手を止め、福永さんの方を振り向く。
福永さんは「えっと······」と言って、片手で自分の首を押さえた。
「しばらく、俺が送り迎えしますよ。また元彼が待ち伏せとかしていたら怖いですからね。」
「えっ、でも······」
「後をつけられて、自宅がバレてしまったりしたら困るじゃないですか?あの元彼の様子なら、何をするか分かりませんよ。」
福永さんにそう言われ、(確かに······)と不安になるわたし。
わたしの異動先の支社を突き止める為に人事課へ異動したくらいだ。
そう思うと、待ち伏せや後をつけて自宅を突き止められてしまう可能性も充分にあった。
わたしは福永さんに申し訳ないと思いつつも、車での送迎をお願いする事にした。
それから福永さんは、毎日わたしを車で送迎してくれるようになった。
福永さんと共に出社し、一緒に退社する日が続くと、それに気付いた深川さんからの嫌がらせも頻繁になり、仕事に支障をきたす程にまで度を超える事もあったが、その度に福永さんがフォローしてくれた。
この現状が続くのは良くないと判断し、福永さんに申し出たのだが、福永さんは「僕がフォローしますから。」と言い、もう少し続けようとした。
そんな中、篠宮さんとも頻繁ではないが連絡を取り合っていた。
しかし、悠史がわたしの前に現れた件については話さなかった。
篠宮さんに悠史の事を話すのは、なぜか気が引けてしまったからだ。
そして、週末の金曜日。
いつものように自宅マンションの前まで福永さんの車で送ってもらったわたしは、この日を最後にしようと、福永さんに「もう元彼も来なさそうなので、来週からは自分で通勤します。」と伝えた。
福永さんは「分かりました。また何かあったら、遠慮なく言ってくださいね。」と言い、わたしは改めてお礼を言った。
「それじゃあ、また来週。」
「はい、ありがとうございました。お疲れ様でした。」
そう言って、わたしは福永さんの車から降りた。
助手席側のドアを閉め、車の中で手を振る福永さんに会釈しながら控えめに手を振り返す。
わたしは福永さんの車が走り始めるまでその場に立ち、福永さんを見送った。
(今週は長く感じたなぁ···、もう悠史が来なければいいんだけど。)
そう思い、マンションに入ろうと後ろを振り返った瞬間、わたしはその先に立っていた人影に気付いた。
「あっ······」
そこに立っていたのは、何とも言えない切なく複雑な表情を浮かべ、わたしを見つめる篠宮さんの姿だった。



