「え···、悠史···何で······」
A支社が入るビルの入り口横に立っていた悠史は、不気味な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
わたしはあまりの驚きに背筋が凍り付き、ただその場に立ち尽くした。
「夏妃、久しぶり。」
そう言って近付いて来た悠史は、清潔感はなく着ているダウンジャケットから覗かす洋服はよれていた。
別れを告げてから、この約3ヵ月の間で何があったのかは知らないが、もうわたしには関係のない事だ。
「···何しに来たの?」
「何でそんな冷たい事言うんだよ。やっと、夏妃の異動先を突き止めて会いに来たのに。」
「わたしは、もう会いたくなかった。」
わたしの目の前で立ち止った悠史に冷たく言い放つと、ニヤリと笑っていた悠史の表情は魂を持たない人形のようになり、瞳の奥に光りさえ映っていなかった。
まるで硝子で出来た瞳のようだ。
「課長に訊いても教えてくれなかったんだよ、夏妃の異動先。だから、自分で突き止める為に人事の方に異動して、やっと分かったんだ。少し時間はかかったけど、帰ろう···夏妃。」
悠史はそう言って、わたしの左腕を掴んだ。
「ちょっと、触らないで!」
「一緒に帰るよ、夏妃。」
「やめて!悠史には、瞳さんをと遥斗くんがいるじゃない!」
わたしは悠史の手を振り払おうとしながら、そう言った。
悠史はわたしの腕を掴む手の力を強めて、「あいつらは、もういいんだ···俺を利用しようとしてただけだから······」と今にも消えてしまいそうな弱々しい声で言った。
「俺には···俺には、夏妃しかいないんだ。だから、戻って来てよ!頼むよ!」
帰宅ラッシュで通り過ぎて行く人達が多い中、悠史は周りの迷惑も考えず、突然叫び始めた。
わたしの腕を掴む手の力も尋常ではなく、恐ろしいとさえ思った。
(どうしよう···、早く悠史の手を振り解いて逃げたい···!)
わたしがそう思いながら萎縮していると、ふとわたしと悠史の間に割って入る人物の背中が現れ、わたしは驚きで目を見開きながら、その背中を見上げた。
「やめてください。嫌がってるじゃないですか。」
そう言い、わたしを庇ってくれたのは、福永さんだった。
「何だよ、お前。お前には関係ないだろ!」
「それが関係あるんですよ。彼女は、俺の大切な人なのでね。」
「はぁ?!」
「あまりしつこいようなら、警察呼びますよ。」
福永さんがそう言うと、悠史は悔しそうな表情を浮かべ、それ以上は何も言わずに舌打ちをして去って行った。
思わぬ悠史の登場に恐怖を感じていたわたしは、去って行く悠史の後ろ姿が見えなくなると、やっと胸を撫で下ろし、恐怖で強張っていた肩から力を抜く事が出来た。
「大丈夫でしたか?」
「はい···、ありがとうございました。」
「もしかして、今のが、前に話してた元彼?」
福永さんの問いに、俯きながら頷くわたし。
わたしの反応に福永さんは「結構ヤバそうな人ですね。」と苦笑していた。



