初恋のジュリア


「いただきまーす!」

そう言って、コンソメスープを吸ったロールキャベツに齧り付く篠宮さん。
その瞬間に溢れ出した肉汁に「んんー!」と目を見開きながらロールキャベツを頬張っていた。

「めちゃくちゃ美味しい!」
「本当ですか?良かった!」
「もう何個でもいけちゃいますね!」

篠宮さんが喜んでくれる姿につい見惚れてしまうわたし。
今まで、誰かに料理を振る舞う事をこんなにも幸せに感じた事はなかった。

桐島の両親に作っても、悠史に作っても"当たり前"といった様子で喜ばれた事がなかったのだ。

篠宮さんはロールキャベツを美味しそうに食べながら「桐島さんは、絶対良い奥さんになりますね!」とわたしを褒めてくれた。

「いえ、そんな事ないですよ。篠宮さんこそ、こんなに喜んで食べてくれる旦那さんなら、作り甲斐があると思いますよ。」
「いやぁ〜、その前に俺は結婚出来るかが危ういですよ。」

そう言って、笑って誤魔化そうとする篠宮さんに、わたしは「そうなんですか?篠宮さん、モテそうですけどね。」と言った。

「全然そんな事ないですよ!27にもなって、初恋相手が忘れられなくて···前に進めないんですよ。女々しくて、格好悪いですよね!」

笑ってそう話す篠宮さんの表情はどこか切なげで、なぜかその"初恋相手"に嫉妬してしまう自分がいた。

(こんなに素敵な人の初恋相手って、どんな人なんだろう。)

そう思っていると、篠宮さんは根菜の明太子サラダを一口頬張り箸を置くと、かしこまったように膝に手を置いた。

「俺の初恋話、聞いてくれます?」

さっきまでの笑顔とは一変し、真剣さを感じる篠宮さんの言葉に、わたしも箸を置くと「はい、どうぞ。」と言った。

「俺が14歳の時だったんですけど、当時"Calm"っていうSNSが流行ってて···携帯を持たせてもらったばかりだったので、興味本位で始めてみたんですよ。」

篠宮さんの話に("Calm"懐かしいなぁ。)と思いながら聞くわたしは相槌を打ち、「"Calm"流行ってましたもんね。」と言った。

「はい。それで、そこで出会った同じ歳の女子に惹かれたんです。境遇が似てて、大人しい印象だけど、心が綺麗で優しい子でした。きっと、興味がなかったであろう俺のゲームの話も、面倒くさがらずに聞いてくれて。」

そう言って、その頃を思い出すかのように宙を見上げる篠宮さん。
わたしはそこまでの話を聞き、自分の記憶と重なり過ぎている事態に気付かずにはいられなかった。

「やり取りが始まったのは冬休み中だったんですけど、その子が冬休みを明けたら、なかなかやり取りが出来なくなるって言うので、このままだと連絡取れなくなる!って焦って···、俺の方から手紙のやり取りをしないか提案したんですよ。そしたら、快くオッケーしてくれて。」

(ちょっと待って···それって······)

「その子の住所と名前を聞いて、俺から手紙を出したんですけど、いくら待っても返事は来なくて···。あとから姉に相談して気付いたんですけど、俺···自分の家の住所書き忘れて出しちゃったんですよ!だから、返事が来るわけなくて···本当、阿呆ですよね!」

そう言って笑う篠宮さんは、静かに笑いを抑えるとゆっくりと真剣な表情へと移行していき、そっと視線を上げて、わたしを真っ直ぐに見つめた。

「俺の初恋の人の名前、桐島夏妃さんっていうんですよ。」