「わたしがお邪魔しちゃっていいんですか?彼女がいたりしたら······」
わたしがそう言うと、篠宮さんは明るく「いやいや!彼女なんていませんよー!」と言った後、ハッとした表情に変わり「あ、桐島さん、彼氏いますよね!すいません······」と申し訳なさそうに言った。
「いえ!わたしも彼氏なんていませんよ。去年まではいましたけど、色々あって別れました。」
「そうだったんですね。じゃあ、ワイン飲んで嫌な事も忘れましょう!」
篠宮さんはそう言って親指を立てると、握り締めていた鍵を使い、玄関のドアを開けた。
そして「どうぞ〜。」と言いながら、わたしが入りやすいようにドアを支えてくれる。
「お邪魔しまーす。」
わたしは控えめにそう言って、ゆっくりと足を進めると、篠宮さん宅の玄関に入った。
篠宮さんのお家の中は、甘過ぎないフレッシュな芳香剤の香りがして、我が家と同じ間取りでも新鮮に感じた。
そして篠宮さんに続き、短い廊下を歩いてリビングへ向かうと、わたしの目に一番に飛び込んできたのは、壁に掛けられた女性キャラクターのタペストリーだった。
(何のキャラクターなんだろう。)
その女性キャラクターは茶色い髪の毛に緩いウェーブがかかっており、綺麗な顔立ちに赤いドレスを着ていた。
色褪せたような配色で描かれたその女性キャラクターの絵は、モノクロで統一されたシックなリビングに違和感なく溶け込んでいた。
「どうぞ、座ってください!」
そう言って篠宮さんは2人用の食卓テーブルにある椅子の片方を引き、わたしが座りやすいように促してくれる。
わたしは「ありがとうございます。」と言うと、緊張気味に恐る恐るその椅子へと腰を掛けた。
対面キッチンに入って行った篠宮さんは、キッチンでタッパーを開けると「うわっ、美味そう!」と言って、肉じゃがをお皿に移し変えた。
(肉じゃがを渡したらすぐ帰るつもりだったのに、お家にお邪魔させてもらっちゃった······)
そう思いながら、わたしは緊張から挙動不審になってしまう。
キッチンで色々用意してくれている篠宮さんは、わたしに気遣い、話し掛けながら次々とワイングラスや取り分けする為のお皿を運んで来てくれた。
「そういえば、杏仁豆腐どうでした?」
「凄く美味しかったですよ!」
「良かったぁ!」
「わたし杏仁豆腐好きで、常備している杏仁豆腐があるくらいなんですよ。」
「そうなんですね!ちなみにいつもは、どこの杏仁豆腐を買ってるんですか?」
「"ドール"っていう珈琲ショップの杏仁豆腐です。プルンとしたわたし好みの杏仁豆腐で、お気に入りなんです。」
わたしがそう言うと、篠宮さんは「あ、"ドール"に杏仁豆腐なんて売ってるんですね!知りませんでした!珈琲豆とか調味料が売ってる印象しかなかったです。」と言い、興味を示してくれた。



