初恋のジュリア


それから簡単に身支度をしたわたしは、トーストとカフェラテで朝食を済ませると、悠史との同棲時に新調したお気に入りのエプロンを着用し、一通りの家事をこなしていった。
仕事の疲れで余裕がなく平日に出来ていない掃除をすると、溜め込んでいたモヤモヤする気持ちもリセット出来ているような気がした。

午後になると、昨日の買い物で買って来た食材を冷蔵庫から取り出し、ほうれん草ともやしのナムルに、人参サラダ、豚肉の南蛮漬け、肉じゃがを作り置きおかずとして作っていく。

料理は好きと言う程ではないが、桐島家で生活している時に料理を覚え、基本的には掃除洗濯もそうだが、わたしが担っていた事もあり、料理を作る事が週間付いているのだ。

あの頃は家事が億劫で仕方なかったが、今思えば大人になってから役に立っている為、"良かったのかもれない"と思う一方で、"母の味"が無い事に寂しさも感じていた。

そして、料理も完成に近付いた時、わたしはふと思った。

(肉じゃが、ちょっと作り過ぎたかも······)

作り置きとはいえ、明らかに鍋いっぱいに作ってしまった肉じゃがの量を見て、食べ切れるか不安になるわたし。

(昨日、杏仁豆腐もらっちゃったし、篠宮さんにお裾分けする?)

そう考えたが、(肉じゃが嫌いだったらどうしよう。)、(もし彼女が居たら余計な事しない方がいいよね。)、(お返しするなら手作りより買った物の方が嬉しいかな?)など、篠宮さん側の事をグルグルと頭の中で考え過ぎてしまい、結論に到達しそうにもなかったが、結局はあまり考え過ぎず、"独身男性を心配するお節介な隣のおばちゃん"スタンスで肉じゃがを持って行く事に決めた。

このマンションは、どこの部屋も1LDKの単身者向け物件の為、きっと既婚者ではない。
それにもし既婚者で奥さんか恋人がいたとしたら、昨日のようにわざわざ杏仁豆腐を買って来てくれる事はないはず。

自分の中であーだこーだ考えながら、わたしは肉じゃがをタッパーに詰め、エプロンを外し、自分の容姿が乱れていないか確認する為に洗面所にある鏡の前に立った。

(迷惑そうだったり、断られれば、持って帰って来ればいいだけ。)

そう言い聞かせ、自分の背中を自分で押す。
わたしは小さい頃から人の顔色を窺う癖がある為、もし篠宮さんが"いらない"と思えば、それを察知出来るはずだ。

「よしっ。」

わたしはそう言って自分に気合を入れると、タッパーを持って、隣の302号室へと向かった。