(わたし、何してるんだろう······)
外へ出ると、チラチラと粉雪が降っていた。
笑い合いながら道行く人々とすれ違い、自分だけが孤独なように感じてしまう。
わたしはいつものスーパーに立ち寄ると、土日はどこへも行かずに引き込もれるように食料を買い込み、自宅マンションへ帰った。
誰も居ない真っ暗な玄関の電気を点けると、廊下の向こう側に見える明かりのないリビングに寂しさを感じる。
わたしは「ただいまぁ〜」と誰に言うでもなく独り言を零すと、冷えた廊下の床を歩き、リビングへと入った。
キッチンの入り口付近に買い物をして来たエコバッグを置き、リビングの電気を点け、窓のカーテンを閉める。
そして、コートを脱いで片付けようと寝室へ入ろうとした瞬間、インターホンが鳴り響いた。
(えっ?誰だろう。特に配達される物もないはずなのに。)
そう思いコートを手に持ったまま、リビングの入り口傍にあるドアホンの画面を確認する。
そこに映っていたのは、お隣の篠宮さんだった。
「はい。」
"通話ボタン"を押してそう言うと、ドアホンの向こう側から「隣の篠宮です。」という程良い低音ボイスが聞こえてきた。
わたしは脱いだコートをソファーの背もたれに放り投げると、小走りで玄関へ向かい、ゆっくりとドアを開ける。
玄関の外には、帰宅して来たばかりなのか、微かに肩に雪が残る篠宮さんの姿があった。
「あ、こんばんは。」
「こんばんは。」
「こんな時間にすいません。」
「いえ、どうかしましたか?」
わたしがそう言うと、篠宮さんは「あのぉ、大した物じゃないんですけど、良かったら······」と言い、白い袋を差し出した。
「これ、"アルジュノン"っていうケーキ屋さんに売ってる杏仁豆腐なんです。美味しいので、是非食べてみてください。」
そう言って篠宮さんが差し出す白い袋には、焦げ茶色の文字で"ALJUNON"と書かれていた。
「え!いやいや、そんな頂けませんよ!」
「遠慮しないでください!仕事帰りに買って来てみただけなので!」
そう言い、にこやかに微笑む篠宮さん。
わたしは不覚にもその微笑みに少しドキッとしてしまった。
(相変わらずのイケメン······)
そして、わたしは遠慮がちに「じゃあ······」と言うと、篠宮さんが差し出してくれている杏仁豆腐を受け取り「頂きます。」と言った。
「助けてもらったり、頂いたりばかりで···何か申し訳ないです。」
「いえいえ、気にしないでください!それじゃあ、これ渡しに来ただけなので。失礼します!」
篠宮さんはそう言うと笑顔で会釈をし、わたしはそんな篠宮さんに「ありがとうございます!ご馳走様です!」と言い、隣の自宅へと帰って行く篠宮さんを見送った。
(杏仁豆腐、貰っちゃった。)
わたしはそう思いながら玄関のドアを閉め、鍵を掛ける。
頂いた"アルジュノン"の白い袋を持つわたしはリビングへ行くと、それをテーブルの上に置いて中を覗いてみる。
そこには白い小柄な長方形の箱が入っており、その箱を開けてみると、そこにはガラスの器に入った真っ白な杏仁豆腐が入っていた。



