「何名様ですか?」
そう言って、黒い三角巾を頭に巻いた若い女性店員が元気良く出迎えてくれた。
福永さんは指を2本出し、ピースをするように手を女性店員に見せると「2名です。」と答えた。
「2名様、ご案内しまーす!」
女性店員の活気ある呼び声に、「いらっしゃいませー!」と他の店員たちが声を上げる。
サラリーマンのおじさんたちが多い賑やかな店内は、それほど広いわけでもなく、団体客が来れば貸切状態になってしまうくらいの広さだ。
案内されたテーブル席につく福永さんとわたしは向かい合うように座り、メニュー表を開くと、まずは注文するお酒を選ぶ。
福永さんは、メニュー表に視線を向けるわたしに「桐島さん、お酒は飲まれる方ですか?」と問い掛けた。
「たまに飲むくらいですね。それほど強いわけでもないので、飲んでもアルコール度数が低いチューハイとかです。」
「なるほど。じゃあ、このへんですかね。」
そう言って、チューハイ系の商品名が並ぶ箇所を指差す福永さん。
すると、そこに「あら、やだぁ〜!福永さんと桐島さんじゃないですかぁ〜!」と、あの纏わりつくような猫撫で声が聞こえてきた。
わたしは嫌な予感をさせながら、声がした方へと顔を向ける。
残念な事に嫌な予感は当たってしまい、そこには笑顔でこちらに手を振る深川さんの姿があった。
「こんなところで偶然ですねぇ!わたしもご一緒していいですかぁ?」
そう言って、勝手に福永さんの隣の椅子に腰を掛ける深川さん。
福永さんは笑顔を引き攣らせながら、「ははは、どうぞ。」と言った。
「お酒はこれから注文ですかぁ?」
「はい、まだ選んでいたところです。」
「わたしは何にしようかなぁ〜?わたしあまり飲めないんですけどぉ〜、久しぶりに生ビール頼んじゃおうかなぁ〜?」
やけに福永さんとの距離感が近く、必要以上に福永さんにボディータッチする深川さんは、完全にわたしの存在を無視していた。
(本当に偶然なのかな。それにあまり飲めないなんて嘘なんだろうな。)
わたしはそう思いながら、日頃深川さんが会社の人たちとの雑談から頻繁に飲み歩いている事を知っていたのだ。
「福永さんは何しますぅ?福永さんと飲むの、忘年会以来ですねぇ〜!あの時は、わたしつい飲み過ぎちゃってぇ〜。福永さん、わたしが飲み過ぎないように見張っててくださいねぇ?」
わざとらしくわたしが居ない時の話をして、わたしを除け者にしようとする深川さんに、わたしは嫌気が差してしまった。
(勤務外なのに、嫌な思いする必要あるのかな······)
わたしはそう思い、椅子から立ち上がりコートを羽織ると、帰る支度を始めた。
「すいません、急用を思い出したので、わたし帰りますね。」
わたしがそう言うと、「えっ······」と驚く福永さんに、「えぇ〜、そうなのぉ?用事があるなら仕方ないね!」と喜ぶ深川さん。
そしてわたしは空気を読むフリをして「それでは、お二人で楽しんでくださいね。失礼します。」と言い残し、マフラーとトートバッグを持ち、居酒屋を後にした。



